孤高の人 16 (ヤングジャンプコミックス)
人との係わり合いの楽しさと厳しさを知り成長したミスター加藤。
喜びも苦しみもわずらわしさも感じさせてくれたパートナーとK2東壁に挑みますが、
この挑戦は最初にして最後のものとなりそうです。
ストーリーの各所にちりばめられる家族と人との邂逅の回想が悲壮感をさらに強めています。
このままミスター加藤は帰らぬ人となったしまうのでしょうか?
しかしまだこの巻では救いのありそうな描写もでてきます。
原作の結末にたいして漫画ではどのようにまとめあげるのか?
完結まで眼が離せない作品です。
劔岳 点の記 メモリアル・エディション [DVD]
時は明治。前人未到の地である剣岳を測量するまでの日々を描いた作品。
山にはまったく興味のなかったのですが、山のみせる様々な表情にいつのまにか惹きこまれてしまいました。長閑な緑あふれる風景があったと思えば、険しい崖があり、似たような景色を映しても嵐や吹雪などの天候で風景はまったく違うようにも見える。ハイキング程度の山しか登らない私は、ひとつの山でこんなにも違う表情があるのだなぁと感心してしまいました。
撮影は長期間に渡って山篭りをしたというだけあって、映画というよりもドキュメンタリー映像を見ているよう。俳優さんたちの髭が自然と伸びる映像を撮りたかったと、以前、監督がTV番組でおっしゃっていただけあって、自然や時間の経過をリアルに追及したとてもこだわりのある職人気質あふれる映画ですね。
物語は単調ながら、たとえ後世に何の実績が残らずとも任務を遂行するんだという、測量の仕事へかけるあつい情熱に心を動かされました。情緒や間を大事にしているシンプルな演出が良かったと思います(見る人によっては眠くなるかもしれませんが)。
では、なぜ☆3つなのか。子供から大人まで、誰も彼もがわかりやすいエンターテイメント性の強い作品ではないことと、こだわりがある作品なので見る人を選ぶかなと思ったからです。真ん中をとりまして、☆3つにしました。
栄光の岩壁 (上巻) (新潮文庫)
「孤高の人」からの流れで、読んでみた。
こちらも芳野満彦氏という、実在モデルがいるらしい。
高校時代、凍傷で足指を失ってから、トレーニングでない足を蘇らせ、山小屋の冬季番をしたり、山仲間と触れ合いながら岩壁登りにのめりこむ前半。
メーカーに就職し、山の映画の企画開催等、社会人としての奮闘、その中での出会い、結婚、そしてアイガー北壁に挑戦する…、というのがあらすじである。
ガキ大将だった小学校時代から、悪役が終止付きまとう。
これが、あまりにも分かりやすく悪者すぎる上に、しつこい。
この悪役にもモデルがいるのかどうかが、気になるところである。
創作だとしたら、やり過ぎだろう。
この悪役がからんでこない、会社での奮闘や、結婚にいたるまでの部分が、一番面白かった気がする。
終盤のアイガー、マッターホルンでの登攀描写は、「神々の山嶺」のような現代につながっている。
NHK少年ドラマシリーズ つぶやき岩の秘密 [DVD]
この「つぶやき岩の秘密」は当時リアルで見た世代です。衝撃的だった「タイム・トラベラー」(1972/1/1)や「続タイム・トラベラー」(1972/11/4)以降の作品の中で非常に記憶に残ったのがこの「つぶやき岩の秘密」(1973/7/9)でした。当時私は高校生でしたが、作品の内容は小学校の高学年から中学生がターゲットだと思います。当時、私は石川セリの挿入歌に非常に引かれて、6話すべて見てしまいました。後にNHKに挿入歌の話をたずねましたが、「今のところ発売の予定は無い」と言われて、がっかりした記憶があります。(つぶやき岩の秘密をこの年まで記憶していたのは、石川セリの歌のおかげです。)最近たまたまつぶやき岩の秘密を検索していると、かなりの方が実際に撮影地の三浦半島に行っている事を知り、ますます昔の記憶がいとおしくなりました。まだ、アマゾンにもつぶやき岩の秘密のDVDが販売されていたので、思い切って購入しました。35年ぶりに見る映像は以外にきれいで、久しぶりに少年時代に戻り少し興奮しました。作品は少年向きに製作されていますが、改めて見てみると、内容は新田次郎原作であるためか、しっかりしたものでした。年齢層をもう少し高く設定すれば、リメイクも可能ではないでしょうか?まだまだ現在の三浦半島は昔の面影が残っているので、時間を取って、当時の撮影現場に行ってみようかと思っています。
氷壁 (新潮文庫)
山岳小説の名作として有名ですが、最近はじめて読みました。山の魅力がよく伝わってきます。また重い社会派サスペンスとしてのドラマ性も含まれており、とくに企業間のエゴや微妙な連携の手法は今日の社会のありようそのものです。巨大製薬企業の横暴をえがいた映画「ナイロビの蜂」を思いだしました。
この小説のもうひとつの大きな魅力は、昭和30年代初頭の東京人や、日本の女性たちの生き様が、鮮やかに描かれていることです。いまとくらべるとどこか不器用だが、実に凛として、自己の魂の清潔さや、誇り高さを自己注視する文化がそこにあり、日本人はこれほどしっかりしていたのか、と読んでいて気恥ずかしくもなり、また、元気とエネルギーをもらいました。
文豪井上さんの若き日の傑作であるとともに、日本の近代文学のなかで、経済成長著しい昭和中期の銀座界隈など東京の様子や、ひとびとの生き方が鮮やかに描写されている、稀少で、極めて重要な作品とおもいます。