1000の小説とバックベアード (新潮文庫)
“フリッカー式”で刺激的で陰惨なバイオレンスを描いた佐藤友哉と出会った。
鏡家サーガ以来久しぶりに読んだ本作は、いろんな意味で変わったと感じた。
本書の主人公と作家・佐藤の悩みは、シンクロ率120%!
エッセイを読んでいるかのような感覚にとらわれる。
以前あった心をかき乱だすような荒々しい描写は抑えられ、
練り込まれた文章で“小説”を巡るミステリが描かれている。
期待した定番のヤツとは違う、いい裏切りを体験した。
Story Seller〈2〉 (新潮文庫)
「小説新潮」という文芸誌の別冊として出されたアンソロジーの文庫化第二弾。第一弾が、面白かったし、お気に入りの作家、有川浩の作品も掲載されているので、この第二弾も読んでみた。
収録されている作品は次のとおり。
・『マリーとメアリー ポーカーフェイス』沢木耕太郎
・『合コンの話』伊坂幸太郎
・『レミング』近藤史恵
・『ヒトモドキ』有川浩
・『リカーシブル―リブート』米澤穂信
・『444のイッペン』佐藤友哉
・『日曜日のヤドカリ』本多孝好
有川浩を除いて、あまり普段は読んでいない作家が多かったが、かえって、新鮮だった。各作品の後に、その著者の略歴、作品リストも掲載されているので参考にしたい。
よかったのは、有川浩の「ヒトモドキ」。いつものラブコメとは違い、家族関係、親族関係のブラックなところを描いている。面白かったけど、ちょっと怖い。
近藤史恵の「レミング」も「サクリファイス」の外伝だけど、いい。
ちょっと拾いものだったのは、本多孝好の「日曜日のヤドカリ」。何気ない家族の日常を描いたものだけど、中盤の緊迫感、そして心地良い結末が、読ませる。
ファウスト Vol.6 SIDE―A (講談社MOOK)
掲載される内容については既に書いてある通りなのでここでは割愛させてもらうが、いくつかのコンテンツはSIDE-Bへと続いている。
いつも通り、奈須さんのはなんでだ?感を、竜騎士さんは不安感を煽る続き方をしていてSIDE-Bの発売が待ち遠しい限りだ。
(「怪談と〜」で園崎さんとか公由さんとか出て来たりするのだろうか。エンジェルm(ry)
SIDE-A完結してるモノも半分ぐらいある。バランス的にはこのぐらいで良いのだろう。
しかし、人生相談に至らない人生相談ってのは初めて見た気がする。これこれで意表をついて面白いが。
所でこの時期、「うりこひめさま」が降りて来て頂けると非常に有難いですね。
フリッカー式 <鏡公彦にうってつけの殺人 > (講談社文庫)
メフィスと賞作家、佐藤友哉の鏡家サーガの一編。
ミステリーにはいろいろな形式があると思うのですが、この小説はなんと言うか、ピントのなかなか合わない作品だと感じました。
まるっきりぼやけた写真をまず見せられ、それから少しだけピントのあった写真を見せられ、またさらにピントの少しだけあった写真を見せられ……という感じで全編が進みます。
最後にはすっきりできるのだけれど、ずっともやもや感は引きずる感じ。
また、意図的なのでしょうが、会話がどれもちぐはぐで、これはちょっと気になりました。
ま、ほどよく面白い小説です。
(壊れた家族という設定では舞城王太郎の「煙か土か食い物」の方が面白かったですが)
デンデラ (新潮文庫)
「でんでら野」は岩手県遠野に実在したという。姥捨て山にインスピレーションを得て創作された本作は、奇妙にすがすがしい。70過ぎの老婆の無認可秘密集落という設定のため、性の問題が皆無で、政治の問題も極小である。
物語が生と死に焦点化されて進む。どうやって生きるか。なぜ生きるか。登場人物が多すぎるが、熊の登場で、どんどん削られていく。その過程で各老婆のキャラクターが明確になってくる。生きるか死ぬかの局面で、老婆たちの驚異的な活力が発揮される。彼女たちは、さほど生に執着していない故に、強烈に生命力にあふれている。野生動物に近いのだ。
「でんでら」に未来はない。現在と過去しかない。だが「でんでら」という特殊な存在ですら、未来や希望という呪いから解き放たれることはないのだ。