緑の毒
買わずに読もうとしたら図書館蔵書が300人まち
だったので買ってしまった。
表紙のこの絵はなんだろう。凝った装丁だ。
ジルサンダーをはじめとする
ブランド名が結構つぎつぎでてくる。
主人公の医師がブランド好きなのだ。
少々あっけない結末がまっていたのだが、ずるずると
購入後24時間以内に読んでしまった。
映画化されるかどうかわからないが
なかなかおもしろいモノができる
可能性も。ただ、作りようによっては
安っぽいバイオレンス怨念ものにもなりうるかも。
人物描写で共感可能な部分は多い。そこはいいのだが、
著者が別々にこまぎれにかいて角川の「野生時代」に発表したパーツを
寄せ集めた、それもまとめるにあたって
加筆修正とかがおこなわれなかった可能性が
たかいこと、それで、いつもの「毒」が
だせなかった、そのような気がする。
(チャプタータイトルには一部手が加えてあるが本文はもっとも古いのが2003年の作品)。
脇役(邪悪な存在)だか主人公だか、とにかく、開業医=rapist の 川辺 39歳。
対比的に勤務医がでてくるところがメディカルっぽい。
結末をもうすこしなんとかしてもらえれば
もっとよかったのに。現代のさまざまなツイターだの、ツールを
盛り込みすぎの感はいなめない。それで完全に焦点がぼやけてしまった。
チャプターの初出にあたって、長さの制約でもあったのだろうか。
読み終わって、拍子抜けがしてしまったのが
残念である。せっかく買ってよんだのに、と。
OUT [DVD]
~ いやぁ面白い面白い。ワタシ,こういう映画大好きなんだよね。東京郊外に住む主婦・マサコ(原田美枝子),夫はリストラに遭って求職中……ということになっているが毎日どこへ行っているのか分からない。息子はなにが気に入らないのか口を利かなくなってずいぶん経つ……。そんな彼女の元にある日,弁当工場のパート仲間ヤヨイ(西田尚美)から切羽詰まっ~~た声で電話がかかってくる。「あ,マサコさん,助けて。あたし,ダンナ殺しちゃった!」(笑),いや笑ってる場合ぢゃないか。
~~
妊娠中のヤヨイはギャンブル狂いで暴力的な夫の寝込みを襲って縊り殺してしまったあと,我に返って電話をして来たのだった。心ならずも巻き込まれたマサコは,パート仲間で親分肌のヨシエ(倍賞美津子)に助けを求め,自宅の風呂で死体を解体し始める。……そこにやはりパート仲間でカード破産に瀕しているクニコ(室井滋)が借金の申し込みにやって来て…~~…。
~~
家庭崩壊,DV,老人介護にカード破産と,現代を象徴するような問題のあれこれにどっぷりつかった女達の,ヤバくもたくましい精神の脱出行。走り出したら停まれない,日本版「テルマ&ルイーズ」である。出演は上の4人の他,なかなかシブい街金のオトコに香山照之,ヤヨイの亭主殺しを疑われるヤクザに間寛平(喋らないと怖い)。ヨシエの寝たきりの義母にヴ~~~~ェテラン千石規子……。原作ファンにはイマイチの評判らしいが映画としてはキチンとまとまっていると思う。 ところで原田美枝子って,若い頃の「青春の殺人者」でも風呂で死体をバラバラにしてなかったっけ?~
OUT 上 (講談社文庫 き 32-3)
あまりにもおもしろくて、数時間で一気に読んでしまった。
低学歴の持ち主はかなり努力しないと上昇できない階級社会としての現代日本、そこで突破口を求めてあえぐ人々にスポットを当てているという意味では、高村薫の傑作、「レディジョーカー」を思わせる。
しかしこの作品の主人公は、男ばかり活躍する高村小説と異なり、夜間に弁当仕出し工場で働くパートのおばさん四人。彼女らがバラバラ殺人事件に手を染めていくまで過程、それぞれの生活の背景と心理的動機付けが、舌を巻くような力強い筆致で描かれている。
この小説の特徴となっているもう一つの軸は、主婦たちの犯罪の結果、誤って容疑者に上げられてしまうバカラ博打場のオーナー佐竹と、彼のほとんど求道的ともいえる性的歪みだ。佐竹は以前に女を拷問の上に殺して以来、正常な性交渉は営めなくなっている。自分に無関係な犯罪に巻き込まれ、築き上げたものをすべて失った彼の視線は、当然ながら主婦たちへの復讐に向かう。しかし、彼が真に望むのは、自分が以前に殺した女に酷似した主婦の雅子を強姦しながら切り刻むこと、快楽の中で彼女の死を共有すること。この辺りは一見、強引で難しい展開と思われるが、人物描写の見事さと、佐竹の深層心理のおもしろさで一気に読ませてしまう。
また、やはり弁当屋で働く日系ブラジル人宮森の孤独など、現代日本の暗い側面にスポットを当てているので、主人公雅子が最後にすべてを捨てて脱出【OUT】に成功するエンディングにも関わらず、読後感は重い。しかしすばらしく緻密な小説を堪能できた充実感は残る。
最後になるが、桐野夏生は、自分の頭で考え、足で立とうとあがくふつうの女を、尊厳ある存在としてかっこよく描く、ほとんど唯一の日本人作家のような気がする。同じ女として、拍手喝采を送らずにはいられない。
Out: A Novel (Vintage International)
実はこの作者の本は日本語で読んだことがなかった。しかしイギリスで話題を読んでいたので思いきって英語で読んでみることにした。とてもスリリングでおもしろい。田舎の工場を設定にしていて現実感のある中での非現実的なできごと。人間後どこまでやれるかをさぐるサスペンス。英語も簡単なので英語を勉強したい人もおすすめ。
魂萌え! [DVD]
夫(寺尾聡)に先立たれた専業主婦(風吹ジュン)の、女としての自立をえがいた秀作。夫の愛人役の三田佳子をはじめ、出演陣の豪華な顔ぶれを見ているとシネカノンがかなりの力を入れて世に送り出した作品であることが伺える。興行的には今一歩だったような気もするが、いつものキムチ臭さは抜け、純和風のテイストに仕上がっている点に好感がもてる。
実際に映画を見るとわかるのだが、登場人物たちの微妙な<心のゆれ>を捉えた繊細な演出が秀逸である。役者のアドリブではなく、阪本監督が一つ一つ細かい指示をベテラン俳優たちに与えたであろう工夫の跡が随所に発見できる面白さをそなえた映画でもある。
世間知らずの専業主婦が、相続のいざこざからビジネスホテルに雲隠れしてしまうくだりなどは、危なかしくてとても見ていられないものがある。強い強いと揶揄されがちな平成のオバサンではあるが、それはあくまでも家の中だけのこと。一歩外に出れば、こんなにもか弱く同情を禁じえないのは、やはり阪本監督の繊細な演出が成功しているなによりの証拠であろう。