B級パラダイス [復刻版]
本書は、1982年刊行のものの復刻版です。だから
話題はそれ以前のものに限られます。それでも改めて
分かったことがあります。まず桃井かおりを甘食に例え
るなど、この人自身が豊かな感受性と表現力を有して
いたこと。そして他にも・・・
・ 『反逆のメロディ』など初期の日活出演作でのブレイ
クは、現場の熱気に煽られた結果と言っていること(な
るほど、例えば同作での佐藤蛾次郎の舞上がりぶり
は後にも先にもみたことがありません)。
・ 鈴木清順監督作に出演して、新しい自分を発見で
きたと言っていること。
・ 俳優稼業とは別に、歌うこと(特にブルース)への
こだわりが想像以上に強かったこと。
でもわたしがよかったは、ブルースではなく『寝盗ら
れ宗介』のラストでの「愛の賛歌」の独唱。しみじみと
聴かせて絶品でした。ただ、その『寝盗られ宗介』と『わ
れに撃つ用意あり』の若松孝二監督作を除き、俳優と
してのこの人は主役よりも脇役で輝いた人ではなかっ
たかと思います。かつての『祭りの準備』もしかり、晩
年の是枝裕和監督作でもいい味を出していました。
いずれにせよ、彼の出演作とそれにまつわる時代と
に別れを告げるときが来ているのだと思います。
鈴木清順監督 浪漫三部作 ブルーレイBOX(Blu-ray Disc)
ありがとうございます。
ながらく廃盤状態にあった名作たち、優作ファンとしては必須アイテムなのに不覚にも買い逃し、そのうち再発されると信じていましたが意外にもブルーレイ化!実にうれしい再発です。
おそらく単品も出そうですがココはいっちょBOX買いします。
ついでに「悲愁物語」のリリースもお願いします。
生きてるうちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言【DVD】
「生きてるうちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言」、長いタイトルである。毛沢東の文化大革命時代の紅衛兵のある集団名から取ったと言われるこのタイトルを聞いて、人はどんな映画を連想するのか?。
「略称・党宣言」とも言われる今作は、日本映画では極めて稀な原発ジプシーと呼ばれる原発作業者たちの過酷な現状と原発の闇をえぐり出した作品として、反原発の気運高まる昨今、その評価が高まっているよう思える映画である。
だが、ちょっと待って頂きたいと映画ファンの端くれとして言いたい。
確かに、今作の主人公原田芳雄はやくざくずれの原発ジプシーとして登場。彼をフィルターにして描かれる彼らを巡る劣悪な作業環境と過酷なピンハネ、安全度外視の危険作業にやくざの釜が崎からの作業者一本釣りなど世間ではタブー視されていた部分がたっぷりと描写されているが、だからと言って、今作はただの社会派映画では断じてない(ある側面としてはもちろんあるが)。
ここで蠢いているのは、原発の町に肩寄せ合い集まっている人々。即ち、ドサ廻りのズ―ド・ダンサー、やくざ、暴力団から逃げた少女、フィリピンからの出稼ぎ娘、不良中学生と教師、そして原発ジプシーたち。
彼らの悲喜こもごもの日常を、活劇、恋愛、人間ドラマと言った映画的な味付けも盛り込みながら、いかにも森崎東らしい猥雑でパワフルな喜劇としてダイナミックに描いているのだ。
原発ジプシーだけでなくじゃぱゆきさんも取り上げられているが、威光高にメッセージを発している訳ではなくて、飽くまで底辺に生きる人たちへの人間賛歌になっている。
題材が題材だけに、製作会社、配給会社が何年も中々決まらなかったと言う辛苦を背負った映画だが、原田芳雄以外にも倍賞美津子、梅宮辰夫、平田満、泉谷しげる、左とん平らの豪華出演陣が参加。
その年のキネ旬ベスト10にもランクインされた傑作。60年代から松竹で山田洋次と並んで「男はつらいよ」シリーズを手掛けながら、反公序良俗的な要素を以て、山田のアンチテーゼと称された森崎東節を、是非堪能頂きたい。