ピリオド～さよならの向こうへ～川口雅代川口雅代モバイル

月刊ときめきメモリアルアンコール

一連の月間シリーズの最終回。
３枚組みでこれでもかと言うくらいに
飛ばしまくる内容が良い。
ドラマも終わりにあえて通常と違う視点で
描かれていてそこが逆に面白い。

全体的な雰囲気は、ルー語（？）を喋る片桐さんそのキャラらしくアメリカンな印象。
もちろん、入ってる曲全部が全部そういう訳じゃないけれど、他のキャラアルバム（藤崎詩織・虹野沙希等）と比べると、この雰囲気ははっきり言って異色過ぎる。いや、普通のJ-POPアルバムと比べても、相当毛色が違うんじゃないかと思う。
それぐらい、このアルバムは面白い。

最初に「アメリカンな印象」と言ったが、それはロックンロールやUSハードのようなものではない。どちらかといえば、例えば『フライ＆ザ・ファミリーストーン』のような、あるいは『ビージーズ（イギリス人だけど……）』のような、はたまた『ジャクソン5』のような、ブラック・ミュージックとしての「アメリカ」っぽさだ。
（1）（2）のスタートは、その印象を植えつけようとする製作者の魂胆がはっきりと分かる。特に（2）は超王道のディスコ・サウンドを聴かせるので、この辺りで既に違和感爆発である。もちろん、「あれ、これってゲームのアルバム……？」という違和感だ。もっとも、それさえもゲーム主題歌である（3）で解消させるものだから、実にいやらしい曲順をしている。
続く曲も、（4）（6）とアクの弱い曲の間に（5）を挟んでいるので、「さっきのは何だったんだ」とふと思わせてしまう。この辺は曲自体というより（別に悪い曲ではない）、曲順の妙と言えるだろう。実は、（4）も（6）も単体で聴くと、相当「黒っぽい」ことが分かる。しかし、ゲームの世界観に沿った（3）（5）の間隙に入り込んでいるので、そう簡単には気付かないのだ。

そうして安心し切ったところに飛び込んでくるのが（7）。細かい説明はいらない、曲名のごときド直球の王道スウィング・ジャズである。こちらはむしろ、単体で聴くとかなり浮く。なぜジャズ？なぜ全英語詩？しかし、ここまでの流れの中で聴くと、アルバムのコンセプトそのものを見事に浮彫りにしていることに気付くはずだ。アメリカ音楽の象徴たるジャズでこのアルバムはコンセプトを露わにし、かつ最高潮に達する。もはやスタート時のような違和感はない。中間部の流れで、耳が慣れているのだ。
この流れを引き継ぐ（8）は、またしても直球のファンクである。力強いバック・ビートと、レスポンスのカッティングが鋭く響くこの曲は、（7）と共にアルバムの統一感を引き出している。

ところが、残り2曲というところで変化球を投げてくる。それが生ピアノだけの（9）と、ごく普通な（10）。当然ながらクセはない。しかし、フルコースで突っ走った最後だから、それでちょうどいいのだ。特に（9）は、それこそ「今までのはなんだったんだ？」と思いつつも、清涼感すらあるほど潔い。

このアルバムは、例えば主題歌を集めたとか、人気のある曲の寄せ集めではない。捨て曲無し、とも言えない。
しかし、聴き込んでいくと、様々な仕掛けに気付く。例えばブラック・ミュージックを曲の中心に据えたり、あるいは曲順であったり。そして、それらは相互作用して独特な雰囲気を作り出し、結果一つのアルバムを構成している。それは単なるアルバムではなく、コンセプト・アルバムの思想である。そうすると、このアルバムは、どっしりとコンセプトを据えた稀有な作品だと言えるだろう。聴き終わる頃には、ゲームの中とは違うまた別の「片桐彩子」の内面が、各々作られているに違いない。それゆえ、キャラクターグッズの側面としても、非常に優れたものだと言えるだろう。

収録曲のテーマ、そしてコンセプト・アルバムとしての本作にもう一度言いたい。

これは本当にキャラソンか？

最後に、歌唱者である片桐彩子役の川口雅代女史には敢えて触れなかった。それは、本人の作品であれば声や歌唱力を考慮すべきだが、キャラクター名義の作品である場合はそのキャラクターの演技を前提としているために、実際の歌唱とは異なる可能性を排除できないからである。決して無視している訳ではない。