イングリッシュ・ペイシェント [Blu-ray]
何回観たかわからないくらい繰り返し観ている映画。
重厚かつ重層的な構造、そして欧米人の歴史観などが複雑に交錯した人間ドラマの待望のブルーレイ化。
正直なところ、日本人が一度観てもこのドラマの本質は理解できない。私もまだ理解し得てない。
例えば作品の冒頭は、ハンガリーの歌姫「マルタ・シェベスチェン」の歌唱と荒涼とした砂漠で始まる訳だが、
これはレイフ・ファインズ演ずるアルマシー伯がハンガリー貴族であるという暗示である。
少し話はそれるがベルトルッチの『シェルタリング・スカイ』でも描かれているが、「砂漠」旅行は欧米人、ことに上流層にとってあこがれのアドベンチャーでもあった。だからこそ、彼らは「砂漠」で出会う。
私はサントラ(サントラの解説は秀逸)を手にして初めて理解できたことだが、西欧人なら「アルマシー」という姓とマルタ・シェベスチェンの歌唱で薄々、この「イングリッシュ・ペイシェント」の素性が理解できる訳である。
だからこそ「イングリッシュ・ペイシェント」と呼称され死んでいくハンガリー貴族の運命の皮肉が浮かび上がってくる訳である。
そして彼が終生手放さなかった1冊の本、ヘロドトスの『歴史』。
そして彼が愛した女性(クリスティン・スコット・トーマス演ずる)がそのヘロドトスを暗誦し、暗にアルマシーへの親近感を抱かせたのか、アルマシーが逆に抱いたのか、とにかくヘロドトスを読んでいないと理解できない、高次元な心情の交流がこの二人にあった訳で、単なる不倫ドラマでもない。だからこそアルマシーは命を賭して、かつナチスと裏取引をしてまで、彼女を救おうとする。そして彼女の手元にその証として残される、1冊の本、ヘロドトスの『歴史』。
「歴史」のうねりの前では、個人など些細な存在でしかない、という厳然かつ当然な皮肉。
ジュリエット・ビノシュ演ずるハナは、そんなことなど無縁な従軍看護婦。
しかし自らもその「歴史」のうねりの前では、無力なことを(無意識に)悟り、この患者の最期を看取る決意をする。
またその彼女を何くれと気遣うイギリス軍に「所属」するインド人軍人・キップ(ナヴィーン・アンドリュース)。
とにかく1度や2度観たくらいでは、このドラマの重層な世界観は理解できない。
音楽を担当したガブリエル・ヤレドもすばらしい。
「東洋3部作」時代のベルトルッチ×坂本龍一を思わせる、ガブリエル・ヤレドと監督アンソニー・ミンゲラの共同作業の賜物。
とにかく単なる「恋愛ドラマ」ではない。観る側にも相応の覚悟と教養と理解力が求められる、ある意味ハードな作品である。
イングリッシュ・ペイシェント [DVD]
M.シェベスチェーンの歌うハンガリー民謡が砂漠へと誘う。その耳慣れないメロディーは、何の違和感もなくG.ヤレドのテーマ曲へと変わり、砂漠に燃え尽きた愛の物語に辿り着かせる。常に死と隣り合わせの戦地で生まれた
未来へと続く恋と、今、記憶さえもが尽きようとする過去の愛の交錯。
C.S.トーマスとJ.ビノシュの演技が光る。
イングリッシュ・ペイシェント [DVD]
稀にみる傑作!これだけ見ごたえのある映画は久しぶりです。全身に火傷を負った患者が、断片的にその過去を回想していくストーリーは、次第にその男の悲劇的な愛の顛末を明らかにしていく。スパイとしての疑惑、男を恨む男、患者にまつわる様々な疑惑、思惑は、男が貫こうとした愛、愛故の結果であることが明かされていく。そして男を取り巻く人々がその男の過去を理解した時、壮絶な愛のドラマが1つのストーリーとして完成するのである。「英国人の患者」という題名の由来も含め、すべてが明らかとなった時、そのドラマの壮大さに圧倒されました。このストーリーの壮大さは「カッコーの巣の上で」「アマデウス」「存在の耐えられない軽さ」等を製作したソウル・ゼインツの功績によるものと確信します。素晴らしい映画!大傑作!!!
イングリッシュ・ペイシェント [DVD]
全身の大火傷によりイングリッシュ・ペイシェント(英国人の患者)と名付けられた
正体不明の男と、彼を献身的に世話する看護婦。
多くの死を見てきた看護婦は、ある兵士に魅かれながらも、勇気が出せない。
しかし、復讐を唱え乗り込んできた指の無い男に、イングリッシュ・ペイシェントが語る、
切なくも狂おしい愛の物語の結末を聞き、彼女はある決断をする…
まず、冒頭の砂漠の空撮が強く印象に残る。
女性の裸体のように見えるその滑らかな起伏は、美しく妖艶で、底知れない。
そして不倫の関係に陥った男女が見る、洞窟の「泳ぐ人」の壁画。
男と女というものが、太古から変わらず歴史を営んできたことが伝わる。
更に、兵士が恋人をブランコに乗せ引き上げて見せる、教会内部のフレスコ画。
美は、そして愛は、国境を越えて人の心を震わせる。
アカデミー賞を総舐めにしたこの映画がハリウッド製でないため、怒り狂ったハリウッドが
名誉挽回に作ったのが『タイタニック』で、その使命は今作品が残した9部門受賞以上の
賞獲得だった…なんていう噂が本当かも、と思える位に素晴らしいこの作品。
ウィレム・デフォーのファンなので劇場まで足を運んだが、全キャスト素晴らしい演技。
映像の美しさ、脚本の完成度の高さも加わって、『タイタニック』など到底太刀打ちできない。