Akoustic Band
本盤は1989年に発表された作品で,長くフュージョン畑にいたチック・コリアが,久々にアコースティックなトリオ編成で,オーソドックスなスタンダードに取り組んだもの。一足早く成功を収めたキース・ジャレットの二匹目のドジョウを狙ったとの感も拭えないリリースであった。
1968年に名盤「ナウ・ヒー・シングズ」を残しているだけに,彼のピアノはラテン乗りながら良く歌い,決して悪くはない。現在もなおクリス・クロスのお抱えベーシストと化して第一線で活躍していることが示すとおり,ベースのパティトゥッチの太い音も見事だ。
それだけに,残る一名,デイブ・ウェックルの人選は致命的であった。チック・コリアはそのラテン乗りを生かすため,また当時流行っていたラテン乗りのピアノ弾き(ミシェル・カミロやボビー・エンリケスなど)を多分に意識して彼を選んだのであろう。しかし,この両者の相性はまさに最悪以外の何ものでもない。手数だけが無駄に多く,軽い音でパタパタ煽るウェックルは,コリアから下品さしか引き出していない。人選だけで,3割は評価を下げた作品と言って良いのではないか。
実際,パティトゥッチがこののち,相変わらず両刀を充分通用しているのに対し,ウェックルがフュージョンの枠内に収まってしまったことは,何よりもこれを裏付けていよう。
スタンダーズ・アンド・モア(紙ジャケット仕様)
チック・コリアのキラキラと輝く感性が至るところに感じられる演奏です。スタンダードの演奏ではなく、それをモティーフにして感ずるがまま縦横無尽にピアノをドライヴする様は、ジャズ界の巨人の名に値する凄みを受けとりました。
チックのピアノは饒舌です。テクニックも凄まじいですが、驚いたのはベースのジョン・パティトゥッチとドラムスのデイヴ・ウェックルの水準の高さです。
三位一体となって繰り広げられるドライヴ感に富んだ演奏は、聴くもの皆が圧倒されたでしょう。見事としか言えません。落ち着きがないという印象もありますが、これだけ突っ走られるとリスナーもついていくしかありません。
「いつか王子様が」は多くのミュージャンが取り上げた名曲ですが、このチックの演奏も歴史に残る名演奏です。軽やかで爽やかで、少しリラックスしながらトリオの心地よい緊張感が伝わるバランスのとれたものでした。
「ソー・イン・ラヴ」「枯葉」という聴きなれた曲もこのトリオの手にかかると一筋縄ではいけません。元のテーマが分からなくなるほど、異なるフレーズィングが展開していきますが、根本には同じ方向性が3人から感じ取れました。
今回の「スペイン(ロング・ヴァージョン)」も好きです。感性の趣くまま音楽が展開されますので、オリジナルの雰囲気とは少し違って聞こえますが、流石に自家薬寵中の「スペイン」ですので、疾走感はたまりません。シンコペーションの面白さは格別ですし、このアルバムで得たグラミー賞受賞は伊達ではないですね。アコースティックの魅力を存分に感じるアルバムでした。