神様のカルテ
医者の主人公の一人称によって進行する本作。主人公が夏目漱石をこよなく愛するため、その口調はやや古めかしい。が、なんとなく許せてしまう魅力がある。また主人公の周囲の人間はどれもいい意味で曲者。しかも主人公は心の中で周囲の人間を自分で付けたあだ名で呼んでいるのだけれど、そのあだ名の発想がまた面白い。
しかしストーリー面では医者のドキュメンタリーを感動ドラマ風に仕立てたという印象が強く、折角の設定が生かしきれていないところが。収録されている3話のうちの「門出の桜」はまだ良かったのですが。奥付の作者のプロフィールによると、実際に医療現場に立つ人間とあるので致し方ないかなと。
医療現場の問題も触れるもの、特別ふみこむわけではない。あくまで主人公の多忙の背景として描かれている。なので特別読み込まないといけないとか、ある程度の理解や知識が必要というわけではない。むしろ、非常に読みやすい作品。
(しかし、その読みやすさで文章の意味を上滑りしたのか、それとも読解不足なのか、タイトルである「神様のカルテ」という言葉は一体この作品にとってどういう意味を持つのか分からなかった)
人の優しさに触れたい、そんな時に読むことをオススメします。
悩む力 (集英社新書 444C)
非常に読みやすいので2時間もあれば読めてしまいます。
「悩み抜いた果てに横着になる」というのは至極もっともで誠実なメッセージだと思います。
まあ問題は悩んでる途中かもしれません。
耐えられるかどうかの個々人の精神的体力の問題はもちろん、そっと悩ませてくれない悩み続けられないという問題がありますしね。
文化の幅が極めて広いわりにそれを包含する社会の幅は極めて狭いと言われる日本は、
選択肢が多様になっても選びたいものを選ばせない圧力が強いですから、
多様な選択肢の前で立ちつくし一人で悩むことを、
周りの人間だけでなくもう一人の自分が許容し、
誰とも違う自分の孤独を引き受けることができるかどうかで、
悩み抜くことができるかどうか決まるのかもしれません。
この本を読んでそんなことを考えてしまいました。
著者は他者や社会からの承認が欲しかったとのことですが、
俺自身は他人から承認されることより自分自身が心底納得したいという欲求が強いです。
まだまだ著者のように悟れないので悩まないと…
悩むことに罪悪感がある人にお勧めです。
パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか (PHP新書)
この本は、第一部でパーソナリティ障害全般にわたっての詳しい解説があり、第二部以降で10種類におよぶ各種パーソナリティ障害についての「特徴と背景」「接し方のコツ」「克服のポイント」と詳述されております。
私自身も思うに、「結局どのパーソナリティ障害であろうともそのあるがままの現実を受け入れ、(過去の環境要因はともかくとして)これからの自分がどういう生きかたを選択していくか=今後は人のせいにしない にかかっているのではないか。また、それは自分で自分を過度に制約したり否定しないかぎり可能ではないか。たとえ一時的に第三者の援助を必要としても」と思っております。
岡田先生のとても真摯かつ思いやりの深いこの書は現代の生きづらさをかかえている人々にとって必ずや役にたつのではと個人的には思いました。心から感謝です。
こころ
恋愛経験に乏しく友達思いの先生と恋愛感情を初めから超越しようとしたK、この不安定極まりない二つのこころが、年頃の美しい娘を持つ未亡人の下宿で受けた試練は過酷でした。一人の娘を絶対視してしまった二人の結末は絶望か、罪の意識による自殺しかありませんでした。金に纏わる醜さを象徴する叔父とその娘役が好演、先生役も、Kの事件以降、罪悪感に苛まれ続けていた雰囲気を良く出している。しずのあっけらかんとした様子が、余計に先生を苦しめた状況もうまく演出されています。