ちみどろ砂絵・くらやみ砂絵―なめくじ長屋捕物さわぎ〈1〉 (光文社時代小説文庫)
江戸情緒の描写や人情噺が主眼となってしまった捕物帖を秀逸な謎解きミステリであった「半七捕物帖」の原点にもどす試みと、不可能犯罪をアクロバティックに、あくまでも論理的に解決する都筑流モダーンディテクティヴ・ストーリーの実践を両立させた驚嘆すべき都筑道夫の最高傑作シリーズにして久生十蘭の「顎十郎捕物帖」と並ぶ捕物帖の最高峰。
いささか氾作された感のある氏のシリーズキャラクターたちの中でも砂絵のセンセーとその長屋の仲間たちの生き生きとした造形は特筆されるべき存在感。そして細緻を極める江戸風俗の描写も並の専業時代小説家の及ぶところではない。
凝りに凝った新保博久氏の解説も読み応え充分の素晴らしい復刊。
神隠し譚
タイトル通り神隠しをテーマとした短編集ですが、作品のスタイル・内容は実に様々。活字もあれば漫画もあり、学問的なものもあれば幻想的なものもあり、心温まる話もあれば恐ろしい話もある、という具合です。同じテーマでも色々できるものだなぁ、と感心してしまいました。もちろんどの作品も珠玉の出来。編集者の小松和彦氏のセンスが光ります。柳田国男が登場する『早池峰山の異人』(長尾誠夫)を収録して、さらに最後に柳田自身の『山の人生』を収めるあたりが心憎いです。
推理作家の出来るまで (上巻)
著者が「ミステリマガジン」に連載したエッセイであり、著者の幼年期からミステリ作家としてまでの自伝といった感じのものである。
上巻の前半、特に戦争時のあたりは、個人的には面白くなかった。しかし、このような体験が作家都筑のもとになったことを考えると、読んでおく必要がある。そして上巻の後半、戦後の作家スタートからは、正岡容、大坪砂男、その他の作家、編集者、ミステり関係者等々が登場し、がぜん話が面白くなるる。ある種、出版業界裏ばなし、とでもいえるようなエピソードも満載である。
本エッセイが連載されていた昭和五十年代ごろから、著者のミステリ作品はどんどんライトテイストが強くなっていった。たぶん社会派企業情報ミステリ全盛の状態で、著者が志した「謎と論理のエンタテインメント」があまり評価されないことで、テンションが下がっていたのであろう。
本書を読むと、綾辻登場以降の新本格の隆盛が五十年代前半だったら、著者がどのようなミステリ作品を残したであろうかと、ふと考えていまう。ミステリの創作には気力と体力が必要であるため、ベテランといわれる作家諸氏の長編作品を見ることは、ほとんどない。牧「完全恋愛」や土屋「人形が〜」などは、例外中の例外といえる。しかし、完成度という点でも、若いときの作品とは比較にならない。
著者がまだ創作意欲旺盛なときに、新本格ビッグバンがあれば・・・というのは無理な要求であるが、一時期の道尾秀介が、いいところまで著者の志に近づいていた。残念ながら賞取りに走って、方向性が違ってしまったが。
著者のように、ミステリも時代小説も評論も一級であり、いずれも幅が広い、という作家はいない。残念ながら、著者のミステリでは超一級品というものがない。全てにおいて水準以上のレベルであるのだが。「猫の舌〜」や「七十五羽〜」では弱いし、短編ではやはりこれ一冊という重さに欠ける。「誘拐作戦」、「三重露出」、「悪意銀行」なども好きな作品だけども。「なめくじ長屋シリーズ」は初期のものだけなら評価できるのだが・・・
本当に、器用貧乏という言葉がぴったりくる作家であったが、その器用貧乏さがどのようにして生まれたのか、というのが本書を読むとよく分かる。本書は、作家都筑道夫の誕生と成長を知るためだけではなく、戦後の文壇裏話やミステリ雑誌創生期を記録した、貴重な資料でもある。
からくり砂絵 あやかし砂絵 (光文社時代小説文庫)
古典落語に材を採った「花見の仇討」「粗忽長屋」
佐々木味津三の[右門捕物帖]の奇抜な発端部分(しかし本家では腰砕けに終わった)だけを借りて独自の合理的な解決を施した「水幽霊」「首つり五人男」
まさにスタイリッシュさが身上だった都筑氏らしい傑作揃い。
中でも本書のハイライトは強烈なホワイダニットの興味で引っ張る「小梅富士」と「人食い屏風」。異常極まりない状況が論理的に解かれる様は華麗としか表現できない快感。
都筑氏らしいこだわりは、会話を江戸言葉で(巻末の著者自身の解説によれば、注釈が必要にならないよう、江戸に出来るだけ近い明治初期の話し言葉を使ったらしい)地の文を現代語で平明に描く点や、当時の風俗の徹底した時代考証にも表れている。
第一集に続いて迷わず買いの素晴らしい復刊。まったく本書のコストパフォーマンスは驚くほど安い。
殺人狂時代 [DVD]
昭和42年作の白黒作品です。岡本喜八監督の仲代達矢主演です。
タイトルに狂という字がある通り、キチガイ連発の作品です。
精神病患者を殺し屋に仕立て上げて暗躍する「日本人口調節審議会理事」、
それに絡むナチスや秘宝。
理由もなく殺し屋達に狙われる主人公...普通にさらりと観ても十分面白いです。
よく観るとますます面白いです。
何と言っても、日本人口調節審議会理事のボス『天本英世』氏が最高です。
もう、凄すぎます。
劇中のセリフ『人間の歴史で偉大な足跡を残した人物は全てキチガイである。』最高です。もう最高すぎます。
天本氏に関しては見所のオンパレードです。ドイツ語でしゃべるシーンのかっこいいこと!!!
ストーリーは観てのお楽しみです。必見の1本です。