ブナの実はそれでも虹を夢見る
丸山健二は世界文学の最も高い困難な嶺をひとり踏破する小説家だ。独自の庭を自らの力だけで作る作庭家でもある。食えなくなる心配はあったが、書き下ろし一本に小説を絞り、作庭に力を注ぐことで次のような生を歩むことができた。「煩悩のあれこれによって目隠しをされながら自分の本性に従って生き、おのれの言葉によって自分をさらけだすことで、ここまでどうにか野獣から区別できる人間を生きることができた」
最新刊の書き下ろしエッセイ「ブナの実はそれでも虹を夢見る」は140頁で読みやすいようだがなかなか難しい。書き下ろしになってから作品は全て読んでいるが最も難しいエッセイと思う。次々と深い言葉が繰り出されその深さにたどり着けないからだろう。読者の力が試されている。
丸山健二は小説を書く。地に縛り付けられて苦しむ人物たちを。情念の餌食となり、理不尽なほどの不幸を背負い、変遷を重ねて、よりよく味わえる人生とは程遠い結末に向かって雪崩落ちていき、塵から生まれて塵に帰る運命を悟る。葛藤を抱え込んで生きなければならない人間。自己疎外と人間の下等性。ひたすら情緒に傾斜し重苦しい情念に振り回される人間。小説家としての丸山健二が前面に押し出されるのは秋から冬にかけてである。
波乱万丈の人生を生きる彼らには作家自身が色濃く投影されている。作家自身も自らはこの世には不向きで適格性を欠いているという。そして現実の影は思いのほか暗く、あらゆる時代の流れは理不尽で、真理の大半が見せかけにすぎない。文明は止めようのない衰退の一途を辿っている。
この世とは何か、人間とは何か、自分とは何かを厳しく問いつつ小説を書く丸山健二は冬の間たぶん正気を失っているのだろうという。冬の季節があと数ヶ月長ければ、絶望へと失墜し心の混乱が激烈を極め取り返しのつかないことになっているかもしれない。危険が煮詰まったころで自らが全てを作った庭に春が訪れる。開花たけなわの時が来る。彩りの芳香。おぞましいものはすべて排除され、純粋な驚愕と過大な希望にあふれ返り、超感覚的な力に庭は支配される。小説家としての丸山健二はどんどん希薄になってゆく。
作庭家としての丸山健二が登場する。ブナは魔術的な庭の中心として大人の風格を備えて根底から支えている。嘆かわしい精神的な危機と憂愁漂う世界から作家を救い出す。ブナの若葉は生命力の象徴、官能と知性と併せ持った若葉、ブナの逞しさ、ブナは頼もしげに存在感を増し最高の知性を具えた哲学者の風情。 庭すなわちブナの最大の教えは、心のどこかで侮っていた文学の世界を真正面に据えて挑む覚悟が固まったことだ。
ブナがブナであるように、私もまた私であり続けるしかない。自身の内面にひそむ凄まじい力がある。人生なんてどうにかなるのだという楽観主義に裏打ちされた居直り。破滅から直結する危険要素を取り除いてくれ、存在意義を高めてくれた。恒心のなさを指摘し不易な精神を育むように促す。
これからもしばらくは、気高いブナと共に歩むだろうという。ブナの実のように永遠を夢見るのだろうか。
首輪をはずすとき
大喪なことを賜っておられますが、自身は一体何をなさったのでしょうか?もしくはなされるつもりでしょうか?
そして何より、具体的に何を言いたいのでしょうか?偉そうなことを言うのは自らの首輪をはずしてからにして
いただけますでしょうか?
御託はもう結構、何か行動を起こしてからごたごた言え。あんたが一番女々しい。
生きるなんて (朝日文庫 ま 3-3)
11のテーマのうち、ふと心に留まった一つを読む、それだっていいでしょう。でも、不思議な力にぐいぐいと引っ張られ、つぎからつぎへと読んでいくはめになって、一気に読み終えてしまうかもしれません。これら11のテーマは、人として生きること、そのものについてなのです。簡潔で、読み応えがあって、これこそ、混迷をきわめた時代を生きる、ひとりひとりのために著された、ほんとうの意味での「渾身の一冊」。「渾身の一冊」とは、まさに、このような本のことではないでしょうか。若者たちに向けて執筆された、ということですが、80代、90代の人生の熟練者まで、すべての人に力を与えてくれる一冊です。
最新 CMプランナー入門
CMプランナーの入門というタイトルですが
アイディア入門でもありクリエティビティ(創造性)入門
ともいえる本です。
とにかくわかりやすい!よみやすい本でした。
広告にはアイデアが必要です。
アイディアとは、何か。
また、どうやってアイデアをみつけていくのか。
「思考の道具」になりそうなキーワードを世界中の具体的な事例を使って説明してくれています。
ビジュアル的にも見やすく理解しやすかったです。
実際に普段はみることのないCMプランナーの企画コンテもあり、
制作プロセスであったり実際にどのような現場でどうような仕事をしているのか
リアルに想像できました。
CMプランナーを目指す人や広告が好きな人に本当におすすめ!な本です。
夏の流れ (講談社文芸文庫)
丸山健二といえば『虹よ、冒涜の虹よ』のような壮大な大長編のインパクトが強いかもしれませんが、本書『夏の流れ―丸山健二初期作品集』に収録された短編は読み易いです。
極限まで無駄を排した簡潔な文章で描かれた世界の緊張感を存分に味わうことができます。
どの作品も登場人物の会話のリズムがワンパターンかな、という欠点も目につきますが、透徹した人間観察に基づいて深く掘り下げて描かれた人間描写は、並の二十代の人間では成し得ぬものです。
肩肘張って構えてかかる必要はないと思います。さらっと読んでさらっと忘れて、でも忘れ切れずに心の中に残る何かがあったなら、それでいいのではないでしょうか?