螺旋
マドリッドの出版社に勤めるダビッドは社長から作家トマス・マウドを見つけ出すように指示を受ける。マウドは12年前、社にSF小説『螺旋』の原稿を郵送してきた。当時傾きかけていた社は『螺旋』のヒットによって奇跡的に回復したのだ。以来マウドはこれまでその素性も住所も明かさぬまま、定期的に続編の原稿を送りつけてきたが、ここにきて突然次の原稿を送ってこなくなった。続編が出せなければ社は再び苦境に立たされる。
ダビッドは限られた手がかりから、マウドが鄙びたブレダレッホ村に暮す六本指の男だと目星をつけるのだが…。
スペイン人作家パハーレスが2006年、25歳で発表したデビュー作です。
600頁を超える大長編ですが、ダビッドがたどるミステリアスなストーリー、読書好きにはたまらない本と作家をめぐる旅、そしてガルシア=マルケスはじめスペイン語圏文学を長年紹介してきた翻訳家による練達の訳文が相俟って、全く飽きさせることなく、わずか4日で読み通してしまいました。
ミステリアスとはいうものの、この小説は本格的なミステリー小説の部類には属さないでしょう。
都会の生活とは縁遠いブレダレッホ村でダビッドは、地元住民たちとの奇妙で滑稽な交流を体験していきます。その体験がダビッドに気づかせてくれるのは、仕事に追われて余裕のない日々の中で顧みることのなかった妻シルビアがとてもかけがえのない存在であること。ちょっと早いかもしれない中年の危機に身を置くダビッドが、「琴瑟(きんしつ)相和(あいわ)す」という言葉の意味を知っていく物語として私は読みました。
訳者あとがきにあるパハーレスの他の作品もぜひ読んでみたいものです。
*「デッド・ロックに乗り上げた」(26頁)は「〜に陥る」の誤り。「ロック」は「rock」ではなく「lock」なので乗り上げることはできません。
サンティアゴ・デ・ムルシア~バロックギターによるスペイン宮廷のためのフランス舞踏曲集
この舞曲集は、18世紀のスペインのギタリスト、サンティアゴ・デ・ムルシアが、スペイン宮廷のために、当時舞踏の中心であったフランスの舞曲を、スパニッシュギター独自の奏法を用いて編曲した曲の数々ということである。
ギター愛好家にとっては、軽やかでかつ、おおらかさを感じさせるバロックギターの演奏が心地よいことであろう。
また、この時代の舞踏(バロックダンス)に興味のある人にとっては、この種の舞曲が往々にして演奏用の演奏でなされていて、実際に踊るには不向きな場合が多いのに比べ、この曲集は、実際に踊れるようなテンポや繰り返し回数で演奏されている点が興味深いのではないだろうか。
さらに、添付の解説には、ムルシアの音楽活動についての詳しい考察が掲載されていて、歴史的な興味もそそられる。ムルシアの作品集が、チリやメキシコで発見されていて、彼がメキシコに渡ったという説もあるが、まだ真実は謎である。いずれにしても、スペイン人が中南米大陸に進出して行った過程で、当時のヨーロッパの音楽や舞踏もまた一緒に海を渡っていたことは、当然と言えば当然なのだが、戦いや政治だけが歴史ではないのだと改めて感じさせられ、想像が膨らむ。
そして、このような分野別の興味とは関係なく、休日の午後などに、お茶を飲みながら心穏やかに楽しめる絶好の一枚でもある。
サンティアーゴ
イギリスのTradバンドThe Chieftainsの演奏するスペイン北部Galicia地方を題材に取ったMusic。
そしてPigrimage to Santiago(サンチアゴへの巡礼)
聖ヤコブ(サンチアゴ)の骨の眠っているSantiago de Compostelaは古くからたくさんの人々が訪れます。600Km以上に及ぶ巡礼の道を今でも熱心な巡礼者をその道沿いで見かけます。リュックを背負い、サンチアゴの象徴でもある貝殻の付いた杖をつき、その道をひたすらSantiagoに向けて歩いていきます。その時のBGMにはいいかもしれません。
ここでGaita(スペインのバグパイプ)を吹いているのがスペインを代表するGaita奏者Carlos Nunez。迫力の大作Galician OvertureそしてVigoというスペインの町で彼らのコンサートのあと寄ったel Dublinという店で収録されただろうDublin in Vigo。
The ChieftainsのCDの中で一番よく聞くのがこの一枚です。
サンティアーゴ
タイトルから想像されるとおりチリ~スペインに至る移民・音楽がテーマ。スペインのガリシア地方にも伝統のバグバイプがあるそうで、この伝統の音楽を前面にフィーチャーしている。とはいえ、ライナーノーツの説明を見るまでまったく分からなかった。全曲がチーフタンズらしい音に仕上がっていたからである。
チーフタンズといえば、異分野のアーチストとの共演や実験的取り組みが多く、彼らだけによるアルバムは最近は意外に少ない印象がある。このアルバムもまさに他アーチストを招き、スペインの音楽に取り組む「他流試合」的なものなのだが、ここではその「他流」がチーフタンズのバックボーンであるケルト音楽に近いもののせいか、まったく違和感なく、むしろチーフタンズそのものの音になっている??ダンサブルな曲からしっとり聞かせる曲までバグパイプの音が鳴り響き、「チーフタンズらしい音」が欲しいときにはまさにぴったり。最後の曲「ダブリン・イン・ヴィーゴ」はアイリッシュパブでのライブ録音。黒ビールを飲みながらライブに一緒に参加しているかのような、楽しい雰囲気が楽しめる。