Story Seller (新潮文庫)
2000年代から発掘された才能がその名を連ねる本作は、雑誌形態から文庫化されたアンソロジー。
自分が特に気に入ったのは有川浩『STORY SELLER』、道尾秀介『光の箱』、米澤穂信『玉野五十鈴の誉れ』の3つ。
米澤さんの不思議な世界に触れ、有川さんの素直な愛に感動し、道尾さんの筆致に酔いしれる。
これで満足できなければ何を読めばいい、というほどの出来だった。電車の中やちょっとした休憩時間に一編ずつ
読んでいくのも楽しい。是非、一読をお勧めする。
インシテミル (文春文庫)
久々にミステリーを読むということで、友人に薦められたこの一冊。
終盤近くまでは続きが気になり、一気に読んでしまいました。・・・が、読み終えての、「えー・・・」という感じ。何の変哲もない主人公の、突然の「カミングアウト(?)」、そして犯人の動機もよくわからずじまい。いっそ、「そして誰もいなくなった」をなぜってほしかったくらいです。
でも、引き込まれたのも事実。終盤までは楽しく読めましたので、この評価にしました。
儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)
名士の子女が集う読書会「バベルの会」を背景として、著者が「最後の一行」で
読者に衝撃を与える《フィニッシング・ストローク》を企図して書いた連作短編集。
ただ、《フィニッシング・ストローク》と言っても、それまでの世界がすべて裏返される
ようなサプライズ・エンディングというより、著者の清新な語り口によって演出された、
「落語のうまいサゲ」のような印象です(以下、書き下ろし作品についてのみレビュー)。
◆「儚い羊たちの晩餐」(書き下ろし)
バベルの会の会費を払えなかったため、会から除名させられた大寺鞠絵。
そんなある日、彼女の父親が最高の料理人である〈厨娘〉を雇うことにしたと告げる――。
作中で、ジェリコーの『メデューズ号の筏』やダンセイニの某作、そして
スタンリイ・エリンの某作におけるアミルスタン羊といったものが次々と
示されることから、本作のテーマが「アレ」であることが陰に陽に強調
されます。
(参考文献として、中野美代子氏の著作も挙げられています)
ただ、もちろん著者は、ストレートに「アレ」をやりたいわけではありません。
鞠絵と大寺家が体現する属性を、そのテーマと重ねあわせて描くことで、逆に、
バベルの会が象徴している精神性を浮かび上がらせる意図がそこにはあります。
(「羊」や「晩餐」といった言葉のイメージも暗示的ですね)
結末の情景は、現実の社会状況を映したもののように私は感じましたが、
荒涼とした時代であっても、不穏な精神が受け継がれていくさまにニヤリ。
同時にそれは、著者による、作家としての実に控えめな決意表明でもあると思います。
▽付記
法月綸太郎氏の短編にも、本作と同じテーマを扱った作品があります。
氷菓 (1) (カドカワコミックスAエース)
米澤穂信先生の『古典部シリーズ』のコミックです。
タイトルは古典部シリーズの最初の物語である『氷菓』から来ています。
小説版とは多少ストーリー構成が異なっていて、『氷菓』のストーリーの中に、短篇集のストーリー『やるべきことなら手短に』が組み込まれています。
しかし、そのように構成を変えることで、わかりにくい奉太郎の性格(省エネ主義)が理解しやすく描かれていると思います。
原作改変ですが、これは良い原作改変だと思います。
他のレビュワーの方が書かれていますが、本作はアニメ版の『氷菓』を元にしているようですので、このストーリー構成の変更は、アニメ版準拠なのかもしれません。(アニメを見ていないので、わからないのですが)
古典部シリーズにはイラストがないので、キャラクターデザインを見て、「こんなキャラだったのか」と少し驚きましたが、違和感はありませんでした。
絵も綺麗で、ストーリーもよくできていると思います。
折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)
中頃にやや展開が遅いところがあり、読むのを挫折しそうになりましたが、ここの書評をもう一度読んでみて、終盤が面白いということが分かり最後まで読み通しました。読み通して良かったです。
終盤はテンポもよくどんどん読めていきます。そして何がなんだか分からなくなりそうにもなりますが、よくよく考えてみるとなるほどと分かって来ます。
あとがきによれば、問題編のようなところはアマチュア時代に書いたものがベースになっており、解決編がプロになってから書かれたものだそうです。そのあたりの影響もあるのかもしれません。