奇跡を起こした村のはなし (ちくまプリマー新書)
新潟県黒川村が挑んだ地域づくり、人づくりの歴史である。
伊藤村長は多選村長としてかなり有名な存在だった。名物村長が強力なリーダーシップをとりながら、村職員を育て、地域住民にやる気を起こさせている。
数々の施策を打ち出し雇用の場を確保しての、出稼ぎ依存からの脱却はすばらしい。
箱モノづくりではない人づくりとは何かを語る好著である。
住民幸福度に基づく都市の実力評価―GDP志向型モデルから市民の等身大ハッピネス(NPH)へ
行政経営フィーラムのメーリングリストに流れていた内容が参考になるので、許可を得て紹介します。
「住民幸福度に基づく都市の実力評価−GDP志向型モデルから市民の等身大ハッピネス(NPH)へ」
上山信一(監修)・玉村雅敏(副監修)・千田俊樹(編著)
(時事通信社、2012/3発行)
都市や地域の実力を測る「ものさし」は、いまだに経済力(GDP)や財政力だとされることが多い。実際、地域経営や都市政策の実務においてこれまで経済成長が重視されてきた。そして、豊かさは成長の結果として後からついてくると考えられてきた。
しかし、時代は大きく変わりつつある。末期的症状の世界経済、成熟化する社会の姿を目の当たりにし、誰もがこの常識に疑問を持ち始めている。
では、どうすれば良いのか。本書は、これからの都市経営ではGDP(域内総生産)の最大化よりも個々の市民の等身大の幸せ(NPH:Net Personal Happiness)の最大化を目標にすべきだと説く。
NPHとは、GDP(Gross Domestic Products)に対置する新概念である。文字通り「個々の市民の視点に立った」(Net)「等身大」(Personal)の「幸福度/生活充実度/人生充実度」(Happiness)を意味する。
NPHを支えるのは第一に人と社会のつながりである。第二に環境・アメニティの充実、そして第三に所得・雇用である。この3つがセットで充実すると“幸福”に近づく。そして経済成長はNPHを充実させる努力の結果として後からついてくると説く。
このアイデアは、著者たちが所属する新潟市役所の都市政策研究所(所長:上山信一慶大教授)の約4年間の調査活動から生まれた。同研究所は市民生活、産業、環境、交通、社会関係資本などさまざまな切り口から新潟市の実態を調べた。その作業を通じて、新潟ではこれからの共助社会を支える社会関係資本が豊かに蓄積され、暮らしやすい地域社会が形成されていることを発見した。そして都市の実力は経済力によって決まるのではなく、市民一人ひとりの幸せを支える環境の充実ぶりで決まってくると考えるに至った。
本書は3部からなる。第I部ではNPHの基本的な考え方を論じる。第II部ではNPHの視点にたって都市・新潟の実力評価を行った。環境、交通、米作、産業などの実態をていねいに分析し、課題をあぶり出した。事実と数字に基づく分析手法は他の自治体でも参考になるだろう。またこれらの分析は、次のような問いへの解答を示す。
(1)新潟の米作りと水田は今後も持続可能か?
(2)高齢化の中で自動車依存の交通体系はどこまで維持可能か?
(3)豊かな田園が広がる新潟市だが、水質、空気、CO2に問題はないのか?
(4)助け合い精神にあふれる新潟の地域コミュニティを今後どうやって維持するか?
(5)日本酒や米菓に代表される新潟の食品工業群を今後どうやって維持するか?
(6)ニューフードバレー戦略とは何か?
また、第III部では、これからの都市戦略づくりにおいて自治体シンクタンクの果たすべき役割は何かを問うている。
本書は、主に新潟をベースにした評価、分析であるが、多くの地方都市に共通する課題への挑戦でもある。その意味で、各地で地域・都市のビジョンづくりに真剣に取り組む方々に大きなヒントを与える必読の良書である。
●主な構成(目次)
第I部 都市の実力評価の視点
第1章 変わる評価の「ものさし」
1 機能低下する地方経済の発展モデル
2 GDP志向の限界
第2章 新たな評価の枠組み――GDPからNPHへ
1 決め手は個々の市民の等身大ハッピネス(=NPH)
2 NPHの捉え方
第II部 幸福度の具体的評価とその背景
第3章 NPHから新潟市の実力を評価する
1 評価方法
2 評価結果
第4章 「社会とのつながり」を点検する
1 新潟市における社会関係資本と住民ハッピネスの関係
2 住民ハッピネスを高めるメカニズム
3 社会関係資本と社会活動
4 今後の課題
5 社会とのつながりとNPH
第5章 「環境・アメニティ」を点検する
1 新潟市の環境資産の現状評価
2 新潟市の都市構造と交通の在り方
第6章 「雇用・所得」を支える地域産業を点検する
1 新潟市の米農業――強さと弱さの構造分析
2 検証・新潟産業の実力――強さの基となるDNAを探る
3 新潟ニューフードバレー構想
4 地域産業とNPH
第III部 自治体シンクタンクのすすめ
第7章 自治体シンクタンクの意義と役割
1 全国の自治体シンクタンクの設立動向と新潟市都市政策研究所の特徴
2 新潟市都市政策研究所の研究方針・研究体制
3 新潟市都市政策研究所の活動の軌跡
4 自治体シンクタンクの有用性
北越雪譜 (岩波文庫 黄 226-1)
江戸時代末期の1840年前後に出版された大古典です。作者は塩沢で質屋を営み、縮みの仲買人としても活動しながら、本書を書きました。20代から書き始めて出版を企図し、晩年にようやく前半の第一部が出版され、後半第二部の出版は没後でした。
内容は、豪雪の下での生活の苦悩と特殊性を描きます。雪は1年の半分の生活を大幅に支配し妨害する要素と世の人々に知らしめたいのが基本の狙いです。
大量のエピソードが素晴らしいので、例をいくつか。冒頭の雪の結晶の図。江戸時代の作品に顕微鏡の図を予想しないので驚嘆。痛切な実例は、若夫婦が生後半年の赤子を里の親に見せるべく少し離れた土地に向かう途中で、吹雪で夫婦は死亡し、赤子だけが生き残る描写です。赤子が助かる点、かすかな救いですが。もう一つは、商人と農夫が同道して雪道を行く途中で吹雪に遭い、農夫の持つ握飯二つを商人が600文で購入して商人は助かり、農夫は死ぬ話です。600文は今なら1万5千円で、生命が助かったので賢いお金の使い方だったと、商人に言わせています。雪の中の洪水は、著者の実体験で迫力に富んでいます。
ユーモラスなエピソード:農夫が20歳頃に崖から雪の谷に滑り落ち、近くの洞窟で大きな熊と50日間同居し助けられた話。山中の異獣の話は、人間よりやや大きな毛むくじゃらな大きなサルようの動物が、人間を攻撃するのでなく理解して助ける話。
真剣な記述と提案:縮み(麻の布の高級品)の詳しい解説。天然ガス噴出に関係する事柄、鮭にまつわる話を詳しく述べて、最後に養殖の可能性を提案しています。
秋山郷:新潟県と長野県の県境で現在も秘境ですが、そこを1週間旅して記述しています。
本書は文語文ながら、十分に読めます。著者はもちろんですが、この作品をベストセラーにした江戸庶民の文化レベルの高さにも敬服します。
現代文に訳した本の入手が困難で、自分で現代文に翻訳を試みて、完成したら電子ファイルとして公開を考えています。
北越雪譜 (ワイド版岩波文庫)北越雪譜 (岩波文庫 黄 226-1)