『七都市物語』シェアードワールズ (徳間文庫)
「待望の」と冠するには、あまりにもマイナーなこのシリーズ、さて、実物の方の出来がどうかいな、と、試しに読んでみると、予想する以上の佳作揃いだった。
「大転倒」という地殻変動の末、干上がったジブラルタル海峡に運河を建設する公社と、その公社に資本を投入している二都市との政治的軍事的対立や駆け引きを描きながら「ボーイ・ミーツ・アガール」の物語を展開する、小川一水の「ジブラルタル攻防戦」。
異常な出生を持つ主人公と、その主人公を支えるナイーブで凡庸な物語の語り手も兼ねる青年、という、お得意の構図で「この世界ならでは」の虚々実々の駆け引きを展開する森福都の「シーオブクレバレス号遭難秘話」
。
架空戦記畑が本来の活躍の場である横山信義は、「ペルー海峡攻防戦・番外編」として、お得意の海戦、それも、比較的珍しい「潜水艦狩り」を展開、の、「オーシャンゴースト」。
横山と同じ「架空戦記畑」でも、羅門祐人は、やはりこの世界でしか活躍の場がないような、ある種の「トンデモ兵器開発秘話」的な物語を用意する。
総じて、同じ世界を共有しながら、各々の得意とするフィールドの方に引っ張ってきて、のびのびと料理しているなあ、という感じで、どれも(良い意味で)気楽に読み終えることが出来た。
十八面の骰子 (光文社文庫)
宋の時代、皇帝に任命された巡按御史は、身分を隠して、各地へ赴き、悪事を暴いていた。巡按御史の印として持っていたものは・・、とここまでは、水戸黄門っぽい設定。
主人公の若い巡按御史は、皇帝の落し子。それを隠して、相棒たちと、各地で、冒険と謎解き、そして、悪党退治をして行きます。勧善懲悪ものです。5つの中篇からなります。
重々しい事件や、陰惨な事件は、ほとんどなく、地方の役人や小悪党を懲らしめていくもので、明るい気分で、気安く読めます。主人公の相棒たちが、また個性豊かで、主人公とのやり取りは、掛け合い漫才っぽく、楽しいものです。
話自体もですが、宋の時代の食べ物や、文化、産業の等興味深かったです。世知辛い世の中を、憂さを忘れさせてくれる1冊です。
長安牡丹花異聞 (文春文庫)
題名をみておわかりの通り、中国を舞台とした時代小説の短編集です。
文章に冗長なところはないのですが、どことなく気怠るい雰囲気も漂います。
なかなか明かされない謎が絡むからでしょうか?
それとも艶ややかな美女のせいでしょうか?
とは言いつつも、作品ごとに趣向が異なります。
私は表題作に一番惹かれましたが、「殿(しんがり)」という作品の、最後の方にある場面は一幅の絵が想起されて~これもまた楽しめました。
中国の風物が今ひとつな方でも、食わず嫌いせずに挑戦してみてください...これから訪れる秋の夜長に...
琥珀枕 (光文社文庫)
中国を舞台に、不思議な仙薬や壺、井戸にまつわる話が七つ。
水晶玉を覗き込むようにして遠見亭から事件を見守るのは、県令の一人息子で12歳になる趙昭之(ちょう しょうし)と、彼の塾師の徐庚(じょこう)先生。しかしこの先生、ただ者ではない。普段は古井戸に住んでいるが、陸に上がっている時は老人に姿を変えているすっぽんの妖怪である。
一話一話は完結しているのだが、連作短編として話がつながっていく趣向も凝らされている。前の話でちらりと名前が出てきた人物が次の話では主役になる、そうした廻り灯籠的な話の展開。
また、最初は昭之と徐庚先生のふたりだけだった舞台に他の人物たちが出てくるに従って、楽屋裏かと思っていたところがいつしか表舞台へと転じている味わいもある。聊斎志異を思わせる怪異万華鏡の風味とともに、連作短編としての趣向の妙が利いていたところ、ユニークで面白いなと思った。
「太清丹(たいせいたん)」「飢渇(きかつ)」「唾壺(だこ)」「妬忌津(ときしん)」「琥珀枕(こはくちん)」「双犀犬(そうさいけん)」「明鏡井(めいきょうせい)」の七つの話。
なかでも印象に残る作品として、魅力的な妖怪が出てきた「妬忌津」と、ミステリーの妙味は集中随一と感じた「双犀犬」、このふたつの話を挙げたい。
漆黒泉 (文春文庫)
石油をめぐる戦い。
時代は11世紀の中国、宋。
婚約者を殺害された女性が、婚約者の意志を継ぐべく、
使用人、女優、老学者、兵器技術者と手を組んで、
婚約者の政敵である権力者を誘拐するのだが、
いずれも一癖二癖あるチームで
違いに腹を探り合い、虚々実々の駆け引きを繰り広げる。
誰が味方で、誰が裏切るのか、
誰が騙し、誰が騙されたふりをしているのか
スリリングな展開でワクワクします。
ただ、テレビの時代劇のようで、もう少し時代の香りが欲しいと思いました。