怪談倶楽部 廃墟 (竹書房文庫)
著者が参加する怪談会である「怪談倶楽部」の参加者による怪談話を集めたものです。
内容的には恐怖譚が中心ですが,又聞きによる話もあり,完全な「実話」とは限りません。
また,著者は『百物語』という実録怪談シリーズも書いていますが,このシリーズでは著者のカラーを抑えているのに対して,本作では編集方針が異なるためか,著者のカラーが色濃く出ており,きちんとしたストーリー仕立てになっています。
お薦めは,本作のサブタイトルのもとになっていると思われる『高楼館』です。
連作ですが,単なる続き物ではなく,時や関わった人物を変えて語られているという特徴があります。
特に,最終話でもある『狂女』は圧巻です。
実話ならば(たぶん実話だと思うのですが),体験者の恐怖はいかばかりでしょう!
「背筋が寒くなる」というのはこういうことを言うのか,と納得できると思います。
一般的な実録怪談集に少々飽きた方には,お薦めの一冊です。
義経になった男(三)義経北行 (ハルキ文庫 ひ 7-5 時代小説文庫)
義経の影武者となった笑氏の青年、沙棗を主人公にした歴史長編モノの第三巻。頼朝に疎んじられ、追われる身となった義経は北へ、奥州へと逃げるのだが、相変わらず正気を失った状態。そんな中で頼朝は...
物語の大転換を迎えるこの第三巻。いよいよ義経と彼をかくまう奥州討伐に乗り出す頼朝。そんな中で、正気を取り戻した義経は、自分がしたことの重大さに気づき、腹を切る。義経を失った、彼の影武者である沙棗は、義経として生きることを決意し、奥州藤原氏の面々は、奥州の民を守るため、滅んでいくことを選択するのだった...
物語は、義経の悲劇から、さらには奥州の存亡の危機へと展開する。奥州制覇の欲望にまみれながらも、義経の影に怯える頼朝とこの世の浄土ともいうべき奥州を、そしてそこに住む民の平穏な生活を守るために、知略を尽くして、いさぎよく滅びようとする奥州藤原氏の対比が見事。彼らの生き様、死に様がいきいきと描写されている。