砂の器 [VHS]
いわずと知れた、日本映画の名作、必見です。
国鉄・蒲田駅操車場で起きた殺人事件、二人の刑事の執拗な捜査による意外な物証から、やがて容疑者が浮かび上がる。
見直して最も感じたのは、物語序盤から少しずつ地道に進められていく捜査過程が、丁寧に描かれているということです。
その捜査は、名物刑事の強引な勘や、無理な偶然などではなく、きちんと捜査されて除々に浮かび上がる真実と過去であるからこそ、その物語に引き込まれていきます。
このために、クライマックスの、和賀英良とピアノ協奏曲「宿命」の演奏を背景に、丹波哲郎が涙ながらに過去を語るシーンが生きてきて、感動に導かれるものだと思います。
このピアノ協奏曲「宿命」もまた本作において非常に大きくウェイトを締めており、菅野光亮氏の作曲・ピアノ演奏(音楽監督:芥川也寸志氏の協力)による音楽、四季の映像、俳優陣の名演の相乗効果がクライマックスの感動を呼んでいます。
丹波哲郎演ずる刑事は、執念深いことはあっても普通の家族持ちであるし、森田健作も若く真面目ではあっても、二人とも普通の人間であるところも、話をよりいっそうリアルに感じさせ重要であると思います。
加藤剛さんは、出演シーン特にせりふは思ったより少ないにもかかわらず、「宿命」を「生まれて来たことと、生きているということ」と語る場面など存在感があり、特にコンサートでの演奏時の「表情」で、そこに至るまでの人生を表現している様が強く印象に残ります。
他にも、終盤の加藤嘉さん、緒方拳さんら俳優陣の人間味のあふれる演技にも感動必至です。
個人的には、「八つ墓村」「八甲田山」にも出演した加藤健一さんが駐在のおまわりさん役で出演しているのも要チェック。現在は、加藤健一事務所(1980年〜)・劇団を主宰されており、下北沢本多劇場での毎年数回の公演で精力的に活動されています。
Inspector Imanishi Investigates (Soho crime)
松本清張ミステリー『砂の器』の米国版。思っていたより読み易い翻訳でした。
アメリカ映画の警察ものや犯罪ものなんかと較べると、俗語や業界用語のような
厄介な語彙もほとんど出てきません。それに、文化的背景に対する理解度という
障壁もない分、余計に簡単に感じるのかもしれませんね。
文章も概して平明なので、それなりに真面目に勉強してきた学生さんなら、
それ程ストレスなく読み進められる事でしょう。
また描写の繁雑さを避け、簡略化して翻訳されている場面が多い為、結果
として300ページ程に納まっています。原作そのままだと相当長い作品なので、
とくにこだわりのない人には、この方がいいのかもしれません。
日本での出版が1961年。いろんな点で古さは否めませんが、それが逆に
タイムトリップ感を生んで楽しかったりするものですね。
50年前の日本人の暮らしを垣間見る事ができます。
少し例を挙げてみましょう。
' the Izumo limited express ' ・・新幹線がない時代。島根県亀嵩へ急行で出張
' worked on their abacuses ' ・・PCどころか電卓も無い。計算は算盤で
' wearing kimono ' ・・今西刑事は家では着物。着流しが親父たちの部屋着
他にも、妻が妙に献身的だったり、アパートの住人宛に電話がかかってきた時は、
管理人がその人の部屋まで呼びに来たり・・・そんなふうな時代だったんですね。
私の若い頃は著者がまだ現役だったので、現代の作家という印象が強いのですが、
気がつけば古色蒼然。文化遺産として、後世まで読み継がれてほしいものです。
不可能性の時代 (岩波新書)
著者の博識、博捜ぶりは驚嘆に値する。読者はたちまちのうちに、幾つものトピカルな事件や現象を想起させられる。まず若者が引き起こした幾つもの猟奇的事件が分析される。(ただし、「猟奇的」などという言葉は単純思考のそしりを免れないだろう。)無意識に働きかける東京ディズニーランドの仕掛けが紹介されるかと思えば一方では意味深長なゲームやアニメやマンガの世界が展開される。(「新世紀エヴァンゲリオン」を知っていますか?)「美少女ゲーム」が大人気らしい。(「美少年ゲーム」はなくてすむのだろうか?)これをサブカルチャーなどと貶めてはならない。その普遍性を説かれるとこれが現代カルチャーのメイン・ストリームと思わされる。ましてや未来は若者のものなのだから。(でもこの世界に無縁な若者もけっこういるような気がするのですが?)
松本清張、折口信夫、三島由紀夫、大江健三郎、村上春樹などもそれぞれ役割を振り当てられて登場する。つまり論旨の証明のためにはあらゆる道具立てが使われると勘ぐりたくなる。証明すべきこととは現代が「不可能性の時代」だということ、そして戦後ここに至る過程には「理想の時代」と「虚構の時代」があったということである。しかしお膳立てを揃えすぎれば焦点はむしろ拡散する。証明すべきことが難題であること自体が知的な努力を掻き立てている印象が拭えない。
新書版の本は大体がモノグラフである。常識に従わなくてもよいけれど、構成やプレゼンテーションにそれなりの配慮をしてこそ説得力が生まれる。多文化主義批判や「ムーゼルマン」など教えられることも多い。「アイロニカルな没入」「第三者の審級」などの言葉も教えて戴いた。もう一度読み返せば違った感想が生まれるかも知れません。今のところは、失礼ながら、口中に噛み取った肉片が大きすぎて咀嚼にいたらない欲張りな犬のたとえを思い浮かべてしまいます。
DVD白い影(1)
リアルタイムで当時欠かさず観ていた、そしてビデオにも録画した
この作品。それで満足していたのに「砂の器」でまたしても直江先生
より大人になった中居君に魅了され、DVDを求めました。でもボックス
の再発売は無いそうです。
それで1~5までバラで購入しました。残念(>_<)と思いながら…
ところが、またまた直江せんせー!(*^_^*)
と病気悪化。ボックスでなければ本編のみだと思っていたのに、
インタビューあり、長いメイキングあり。うれしー(^_^)v
ボックスの在庫無しでがっかりしている方、バラで購入しても
価値ありですよ。
メイキングではカット後の舌を出して笑う中居君も観られます。
何度観ても名作ですし、直江先生にはジーンとくる。
「白い影 その物語のはじまりと命の記憶」
どちらを先に観るかによっても印象変わりますね。
いずれにしても、最高。