生のさ中に (1978年) (講談社文庫)
※角川文庫版カバーの解説文の転載です。
小川国夫の文学は、私小説の発想をとりながら、それを超えた一小宇宙を形成している。ここには、故郷での少年時代の体験をきっかけにもつ自伝的な前半の10篇と、後半の、ヨーロッパ留学中の旅行にもとづく紀行的な文学10篇他を収める。澄明で、古典的ともいうべき完成度の高い表現で、世評高い前著『アポロンの島』を凌ぐ短篇集。
悲しみの港 (朝日文芸文庫)
小川國夫の小説は難解との印象を持つてゐて通読するのはこれが始めてだが、新聞小説のためか恋愛や職業の悩みなども通俗的にならずに楽しみながら読めた。
人間の思考と行動は別物であり、連続的に移行しないがそれでも何らかの連続があることを自然に分からせて呉れる。
藤枝静男や丹羽正、加藤一雄、富士正晴、島京子などの素人小説家の趣もある。
富士正晴が現在の3美男文士として、島尾敏雄、埴谷雄高、それにあと辻邦生だつたか小川國夫を挙げたが、小川の小説は矢張り美男の文学 − と永井龍男に就て誰かが言つた − で読むと自分も何だか若返つて好い男になつた様な気がして来る。
村上春樹では主人公が幾らもてても読者は不快になるだけなのに。