怪奇探偵小説傑作選〈4〉城昌幸集―みすてりい (ちくま文庫)
この傑作選は全5巻なのだが、他の四人、岡本綺堂、横溝正史、久夫十蘭、海野十三は名前も知っているし、それなりのイメージもあった。しかし不勉強なことに、この作者だけはまったく知らなかった。
ショートショートの先駆者ということだが、馴染みのある星新一の作品が最後の一段で予想外のところに出てしまう梯子のような作風だとすれば、城昌幸の作品は最後の一段でいきなり梯子自体がなくなってしまうような、そんなびっくりするような作風に感じた。
とにかく冒頭の「艶隠者」だけでも目を通してほしい。コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズのような謎に満ちた導入部からストーリーがどう展開するか。おそらくこの一作で本書を通読したくなる衝動に駆られると思う。自分がまさにそうだった。
大正から戦前戦後の暗黒から混沌の時代を背景に、あるときは怪奇・幻想的な味付け、あるときはSFや落語の人情話の香りとバリエーションが楽しめる作品集だ。
若さま侍―時代小説英雄列伝 (中公文庫)
本書は、「舞扇の謎」、「首くくり指南」、「天守閣の狸」など、われらが若さまの活躍する短編5編と中編「べらんめえ十万石」が収められています。「舞扇の謎」は若さまが(颯爽とではなく)うつらうつらしながらお目見えする記念すべき作品。せっかくの居眠りを邪魔された若さまが部屋に踏み込んだ田舎侍どもを一喝するところが実にかっこいい。おっとりしているのに、凛とした気品がただよいます。
「べらんめえ十万石」の主人公は若さまではなく、若さまの原型とでもいうべき侍です。水茶屋の女将おれん姐さんは二人組の侍に追われますが、危ういところを浪人体の侍に助けられます。この男、侍のくせにひどく伝法な口の利き方をしますが、非常に育ちのよい気品がある。それに酒好き。おれんの部屋に勝手に上がりこみ、酒の相手を所望するなぞ、若さまそっくり。天衣無縫な主役の活躍する作品は、読後感がさわやかです。
ニッポンの城 (エイムック 1872)
城の選択、写真、解説記事、レイアウトなどは非常に良いと思う。
ただ、ルビ(読み仮名)の振り方が素人丸出しで、見苦しいとか情けないとかいう以前に、
見づらくて仕方が無い。
担当者の無知とか手抜きとか、いろいろと事情はあるのだろうが、こんな雑な仕事を
する職場は許しがたいというか、すごく羨ましいというか、なんだか複雑な気分になる。
一番目立つ見出しや城の名前のルビがこの有様では、内容もあまり鵜呑みに
できないかもしれない、などと思ってしまう。
素人がワードで編集しているわけでもないだろうに、基本中の基本すらできていない
文字組みというのは、商業出版物としてはダメすぎる。誰もチェックできる者が居ない
というのであれば、出版社の「格」を問われる由々しき事態だと言わざるを得ない。
内容的にはなかなか良さそうで、本当はかなり欲しかったのだが、どうしても
美意識が耐えられずに購入を見送ってしまった。
人魚鬼―若さま侍捕物手帖 (徳間文庫)
篠山藩主の息女うつぼ姫。若さまをして「あの女に惚れなければ男じゃねえよ」とまで言わしめた稀世の美女。藩主の信任厚い医師江川了巴は、不老長寿の秘法を求め、姫を人魚のすむという南海の孤島に連れてゆく計画をたて、道中警護のため、剣客小森新太郎を雇います。
本編は、捕物帖というより伝奇ロマンと言ってよいでしょう。姫のあまりの美しさに魅入られた男どもが、姫をわが物にしようと、あの手この手の策略を弄します。物語は、剣はめっぽう強いが世事にはうとい新太郎を中心に展開しますが、要所要所で若さまがどこからともなくあらわれ、姫の危難を救います。姫はいつしか若さまに恋心をいだきますが、若さまは、「君子危うきに近寄らず」とばかりに素知らぬ顔。とんだ野暮天ですが、若さまはおいと坊のお酌でちびりちびりきこしめしてるほうが性に合うと見えます。