外事警察 CODE:ジャスミン
公安警察内の機密情報の流出に続き、イスラムテロリストに繋がる姉妹の調査を依頼された、警視庁公安総務課巡査部長、松沢陽菜(ひな)。
調査を進めていくうちに、前作の事件で精神を病んでしまった元工作員住本に辿り着く。
一方、CIA、韓国の諜報機関も姉妹に重大な関心を寄せていた。国家秘密警察間での攻防が激しさを増す中、陽菜は事の真相を解明できるのか!
今作は、前作ほどの派手さはないが、現在のインテリジェンスの微妙な関係を粒さに描写すると共に、(いつものことだが)如何に、その世界が過酷かを描ききっている。
今までの同氏のファンの方は当然楽しめます。
装丁に女性の写真を載せてしまったのは残念。登場人物の先入観を作ってしまいますね。
外事警察
麻生氏の作品は、警察や自衛隊関係への取材を綿密に行い、それが作品に反映される半面、
敵スパイやテロリストの造形が甘いことが多々ある。
『宣戦布告』は、工作員の動機が全く不明で、侵略者VS自衛隊という宇宙人ネタSF状態。『ZERO』は取材のしすぎで、
作品自体が資料集と化し、何が何だか分からない。『ケースオフィサー』は、動機らしい場面が冒頭にあるが、
あれが対日バイオテロに繋がるのは首を傾げる。そもそも、風呂敷を広げすぎて収拾がつかなくなった感がある。
そして『外事警察』。
裏をかく、その裏の裏もかく、その裏の裏の裏の……という無限連鎖に身を置く外事のプロフェッショナル達の、
リアルな活動。そして、暗躍する正体不明のテロリストたち。読みながら、ゾクゾクします。アクションシーンもあり、
これまでの麻生作品の美味しいとこ取りのような作品です。
問題のテロリストたちの目的は、『瀕死のライオン』で北朝鮮が実行しようとした<日本隷属化作戦>に匹敵、
もしくはそれ以上の衝撃とリアリティがあり、頭をガツーンと殴られた気分でした。これは怖すぎる。
しかし、だからこそ違和感、疑問が浮かぶ。“彼ら”の目的のためなら、日本でひっそりと暮らし、表立った
犯罪も犯さず、粛々と活動に勤しむべきである。そもそも、海外で派手に活動するために、スパイ天国日本で静かに
暮らすことこそが、彼らの作戦であり、決して日本が標的ではない。
それなのに、中盤以降は、誘拐・爆破・銃撃・ハイジャックなんでもありの、単純な過激派と化している。
しかもその行為は、彼らにとって不測の事態ではなく、計画的であるかのように描かれている。
目的と活動に整合性がとれていない。
警察関係に取材した情報を使いたい欲望に駆られ、それに合わせてテロリストを動かしてしまい、相変わらず「リアルな警察と
アニメチックなテロリスト」という構図ができあがってしまった感じだ。結局のところ、「いつもの麻生幾」です。
極秘捜査―政府・警察・自衛隊の「対オウム事件ファイル」 (文春文庫)
日本中を震撼させた一連のオウム事件。その影での警察・医療・官僚・自衛隊の複雑な関係。そして一切の妥協を許さない警察の意地と官僚の危機管理に対する甘さ。それらすべての要素を集約させた読み応えある一冊だ。
一般に報道されなかった事件、警察内部のメンツ争いや駆け引きも十分に記載されているのがいい。集団のずば抜けた知能もさることながら、日本警察の真骨頂ともいえる足を使った捜査には正直敬服する。
身近でこんな事件が発生することなど誰も予想はしていなかっただろう。でも読めば誰でもわかるはず、これはもう事件ではなく”戦争”なんだと。
加筆完全版 宣戦布告 下 (講談社文庫)
上巻を読んだ人ならこの下巻に入るくらいになれば一気に読めます。
敦賀半島に潜伏する北朝鮮工作員の脅威を排除するオペレーションと、
裏側で浮上してくる北朝鮮本国の動向や中国の思惑などが、
次第に恐るべき事態へと発展しようとして行きます。
後半にさしかかってくると、
どんどん盛り上がって来るのに大丈夫か?
下巻じゃなくて中巻の間違いじゃないか?
と心配しますが、終りは意外とあっさりとしていました。
どうやって状況が終了するのか、というところで、
最初から別エピソードのように進行していたスパイ事件が絡んでくるあたりは、
伏線としては露骨だし長すぎる気もしますが、構成としては効いています。
日本の政治家・官僚の防衛意識のなさ(低さではない)、
それによる自衛隊のがんじがらめともいえる制約や束縛などは
他の本や『パトレイバー2』などで知っていましたが、
ここまで徹底した取材による具体的な構造問題を描いてくれると逆に爽快ですらありました。
日本の防衛問題を描いたシミュレーションとしてはトップクラスの出来で、
問題といえばディテールはともかく小説としてはさらに向上の余地があること、
あとはタイトルが作品中で浮かび上がる時にももうひとつインパクトがないこと、
くらいでしょうか。
でもそれらは迫真で精緻な内容にくらべれば大した問題ではありません。
加筆完全版 宣戦布告 上 (講談社文庫)
本書は2001年当時の日本において、有事が発生した場合に起こるであろう
状況をリアルに示した。。そこには想定外の事態に全く対応できない政治
・警察・自衛隊の姿が克明に描かれていた。その事実を知らなかった自分に
驚愕し、恐怖した。その後、現在に至るまで関連法制は整備され、状況は
変わっているらしい。だが、当時と今では何が変わって何が問題として残さ
れているのか、いまも知らない自分に更に慄然とした。
この問題は、単に当時法整備がなされていなかったということではなく、
何事も曖昧なままその時々のコンセンサス=解釈で物事に当たる国民性と、
武力問題を議論することへのアレルギー反応が根本的な問題であることを
示唆している。また、後半で描かれる、不信と恐怖がもたらす過剰な軍事力
投入の連鎖を見るとき、極限での判断を可能な限り排除する厳格な対応マニュ
アルの必要性とシビリアンコントロールの重要性は言を待たない。
戦争放棄の精神と、国民の生命と財産を守るということ。警備・防衛とは何
なのか。こうした点について、我々は単にタブー視して眼を背けるのではなく、
十分に議論する必要があるのではないか。そんな視点に立たせてくれる一書
であった。