ラストエンペラー [DVD]
ベルトルッチらしいこだわりの映像は息を呑む美しさ。大好きなジョン・ローンとジョアン・チェンらの(京劇的)演技も素晴らしい。しかし、坂本龍一の甘粕をはじめとする日本人が「野心的侵略者」として描かれているように、満州に関する歴史認識は完璧に東京裁判史観に基づいていて、随分反日的なのが悲しい。ベルトルッチの中国への思い入れを思えば当然なのかもしれないし、またそうでなければ人民解放軍をエキストラに使った北京・紫禁城での撮影そのものが不可能であったろう。しかし、である。
溥儀が戦犯管理所で見せられる「記録映画」は、中国機による上海爆撃や国民党軍による中国人(恐らくは共産主義者)の処刑現場をいかにも日本軍の仕業のようにいう。日本での公開時に、日本側がこの部分を削除するよう要請したことで、「右翼の弾圧」と騒がれた。これは完全な歴史捏造プロパガンダ映画なのであるから、当然といえば当然なのだが、現実には「右翼の歴史改竄主義者」のレッテルを貼られただけ。全くの逆効果であった。
しかし、ジョンストンの「紫禁城の黄昏」は、溥儀が自らの意思によって満州国皇帝の地位に就いたこと、満州人の間に皇帝の復位運動があったことを明かしているし、また溥儀が戦犯管理所で書いた自伝「From Emperor to Citizen」の訳者は同所で溥儀ら満州人と日本軍人らが政治プロパガンダ利用のため「洗脳された」と解説している。立派に「思想改造」されて庭師として一般市民同様に働いて自活できるまでになった、というのも実はプロパガンダ用の見せ掛けで、実際には共産党のアレンジで結婚した看護婦の妻(5人目)の世話なしには死ぬまで何も自分でできなかったという4番目の妻の証言もある。
以上の事実を「事実」として頭の隅にそっと戻して、この壮大で美しく、退廃的でやがて哀しい「一万年を統べる者」・最後の満州皇帝の物語を堪能すべし。
わが半生―「満州国」皇帝の自伝〈上〉 (ちくま文庫)
中国近現代史を生きた溥儀の自伝。大変に興味深い。
皇帝の地位をはく奪された後、復活にありとあらゆる策略を練った日々。そして、日本軍の計画に乗り、「満洲国」皇帝となるために中国東北地方で暮らした日々。
最初に読んだとき、私はなぜそんなに皇帝の地位にこだわるのか解らなかったが、今となると祖先から受けつがれた地位をなくしてしまった一族の悲哀をひしひしと感じる。
後編では共産党の意向にそった内容となっている。
ソ連と中国での捕虜生活が書かれているが、ソ連での捕虜生活は何の収穫もなく、中国での生活で人生が変わったという感想は、新中国で一市民として生きることに必死だった彼の姿が想像できる。
自分で人生を切り開くことができず、ほんろうされるばかりだった一人の人間の悲哀を深く感じる。
わが半生―「満州国」皇帝の自伝〈下〉 (ちくま文庫)
清国及び滿洲國の亡国主・溥儀の自叙伝。20世紀初頭の宮廷事情そして市井の人間から窺い知れない皇帝溥儀の不満を知るうえで非常に参考になる。もっとも、この書が中華人民共和国において書かれたものであるため、中国大陸をさんざん蚕食した欧米列強や日本・中華民国における各軍閥についての記述はある程度割り引いて読む必要がある。
本は分冊になるうえ1冊がかなり厚いので、中国に興味のない人・内容をかいつまみたい人にはあまりお勧めしない。よって星2つ減。高校世界史の基礎的知識を得るか、映画『ラスト=エンペラー』などを参照したうえで読む方が良い。
圧巻はこの本の終章。中華人民共和国成立後、思想教育を経た彼は皇帝から市井の人間として生まれ変わることが出来たと感動する。このよろこびが文字と文字の間からこぼれんばかりなのである。この率直な感動を読もう。
溥儀の忠臣・工藤忠 忘れられた日本人の満洲国(朝日選書)
一般書としては370ページに本文は284ページであとは注釈などの補則ということで、注は確かに綿密であるが余りに細かいところもあり、時に煩わしさを感じる。事実に沿ってということであろうが、それにしては溥儀と工藤との関係で忠という名を受ける具体的な事例が少ないように思う。関東軍が彼を溥儀から離そうとし、東京裁判で溥儀をかばう彼の態度からすればよほど溥儀に忠臣であることは理解できる。ただ、そこに小説ではないので、忠という名をもらい改名までしたということが、どれだけ栄誉なことかについてはもう一つわからない。いずれにせよ大陸浪人として中国を渡り歩き、通訳を介せずにコミュニケーションがとれることで日本の軍関係にはタンコブ的な存在であったのだろう。彼と溥儀との関係で天津時代やその後の新京に
到着するまでの忠臣ぶりをもっと出してほしいと思う。また、彼の経済的バックボーンは何であったのか、アヘンなどとの関係は同であったのか知りたいところである。
ラストエンペラー DVD-BOX
清朝最後の皇帝・溥儀の生涯を映画化した大作です。
映像作品としては秀逸な出来映えなのですが、やはり主役をはじめとする人物像が史実と異なっている点が大きな問題です。何と言っても、溥儀が男色家であった事実を無視して「平凡な異性愛者」に仕立てて居るあたりは、本作中最大の欠点と申せましょう。
衣装も筋立ても素晴らしい映画だけに残念な限りです。