五体不満足 (講談社青い鳥文庫)
この本を読んだのは、数年前です。久しぶりに読み返し、皆さんのレビューも読みました。
そして、感じたのは、仕方がないだろうなということでした。
「障害があるのにもかかわらず」「前向きで」「明るくて」いい、と思う人もいれば、
同じ部分を読んで、「障害者としての苦労や苦悩が描かれていない」と感じる人もいます。
でも、それは仕方がないことだと思うのです。
もちろん障害を負っているがための苦労や苦悩があったに違いありません。
それを書かなかったのは、「あえて」だと思うのです。
(レビューを書いた皆さんもそれをよく分かっていると思うのですが)
そこを書かなかった点が、乙武さんの個性であり、
そして「こうなんですよね」と「障害者」として決め付けられ、扱われることへの
もしかしたら反発だったのかなとも思います。
そして、多くの皆さんの言うように、障害者の人たちへの目が変わったことも事実でしょう。
でも、その反面、乙武さんのような人だけじゃないんだよ、とも言いたくなる。
障害を持って生まれたがゆえに、親から見捨てられた障害者の方もいます。
知的障害もあり、それでも社会の中で自立しようと試行錯誤を繰り返している方もいます。
友人の高校生の子どもとその同級生さんたちから
「いい障害者」という言葉を聞いたことがあります。
嫌な言葉でした。
知的障害のない、スマートで、きれいな乙武さんのような方を指すのでしょうか。
その対極には「悪い障害者」の方がいるんでしょうか。
それでも乙武さんも私たち以上に、さまざまな差別や苦痛を受けてきたと思うのです。
できればその乙武さんの口から、乙武さんのように障害を持った人でなければ、
伝えることのできない事を伝えてほしいと思うのです。
障害者の方に対する社会の認識を改めたと言う意味では高い評価をつけられるのですが、
乙武さん個人の物語であり、障害者の方々全体の物語としての視点には欠けるのかな、
と思いつつ、しかし、どのような物語も煎じ詰めれば「個人」のものでしかないのかも
知れないと思い、「障害者」であるからと言って乙武さんにその責任をすべて押し付けるのは
やはり違うんだろうなと思いつつ、でも、私自身はやっぱりこの話は好きになれないなと思いつつ、評価をさせていただきました。