医学と仮説――原因と結果の科学を考える (岩波科学ライブラリー)
本書は120頁ほどですので集中して読めば数時間で読み終わります。
一言でいうと疫学の観点から因果論を哲学的に少し掘り下げた内容です。
ピロリ菌の感染は94年に国際がん研究機関で「明らかに発がん性がある」に
分類されましたが、日本の学者は「動物実験で確認されていない。」と否定的に
受け止めました。著者はこの日本の反応の方が間違っているとします。
疫学で因果性が明らかなのに、動物実験などでメカニズムを解明しない限り
因果性がないとの考えは誤りとします。
これは「部屋のスイッチとその部屋の電灯の因果関係を、配電図を見なければ
納得できないと主張する人はほとんどいない。」(79頁)との見方です。
同じことを要素還元主義の誤謬としても論じています。要素に還元する以前に
因果性が明らかなのに、さらなる要素に還元しようとする誤りです。
その例として森永ヒ素ミルク中毒事件や水俣病事件にも言及しています。
これらの事件では要素還元主義の誤謬に陥って、メカニズムの特定ができるまで
因果性を認めないとして犠牲者が増えた事情があると指摘します。
この部分は啓蒙書として非常にためになると思います。
著者はヒュームの因果論をとくに重視します。経験論を貫くと因果は「第1の
事象のあとに第2の事象が常に随伴する」で尽くされるはずです。ヒュームは
科学法則も経験的知識に過ぎないとします(哲学では通説ですが)。ヒュームは
因果から必然の要素を追放し、因果とは習慣のようなものとします。
本書のヒューム論はこれとは少し異なるところが、ちょっとひっかかります。
さらにそこから観察可能な同種事例を重視するという疫学につながります。
最後の20ページは疫学の初歩的な説明で締めています。
わずか数時間で読める本ですので、読んでおいて損はないです。
ヒュームを基点とした著書としては自分で考えてみる哲学
が良いと思います。
金谷の日本史「なぜ」と「流れ」がわかる本―中世・近世史 (東進ブックス―名人の授業)
東進ハイスクール、金谷 俊一郎先生の参考書で東進の実際の講義の要点をまとめたような本です。つまりこの本には、予備校の、金谷先生の日本史のノウハウがたくさん詰まった本です。図説が多く、また筋道(金谷先生はよく「因果関係」と言います。)を立てて説明してありますから、語句をただ丸暗記するよりも負担が少なく、ゴロ暗記よりもたのしいです。この本はむしろ中学生とかに読んでもらって、ほんとは歴史って楽しいと思ってくれればいいのですが…。要するにオススメです。
乳がんと牛乳──がん細胞はなぜ消えたのか
2010年4月に乳がんの摘出手術を受けました。半年程前、市の検診(マンモグラフィーです)でなんでもなかったのに、自分で見つける羽目になりました。そんな時、わらにもすがる思いで読み始めたのがこの本です。実は自分でがんを見つける前本屋でこの本を見つけ、「またまたー」と気にも留めていなかったのを覚えています。そういう人が多いのではないでしょうか。
でも、読んでみてまさに目からうろこでした。私もこの作者と同じように忙しいときは蛋白源だ、カルシウムをとるためだと好きでもないのに牛乳を飲んだり、おなかのためにヨーグルトを一生懸命食べたりしていました。また、家計のために安い牛肉や豚肉も買って食べていました。そして作者と同じようにがんになりました。病院で同じように乳がんの人とたくさん会いましたが、真面目で食べることが好きで毎日忙しくしていた人が多いように感じます。そういう人は確かに私や作者のように健康にいいといわれているので手っ取り早く乳製品に頼ったり、安い牛肉を食べる機会が多いのではないでしょうか。なぜなら、おそらく忙しい時食べるであろう出来合いの食品に高級な牛肉が使用されているとは思えないし、ケーキやお菓子、おいしそうな西洋料理にも乳製品はたっぷりと使用されているからです。
私はこの本と「葬られた第2のマクガバン報告」を読んで遅くはありますが、食生活を見直しました。親も見直したら20年来の高血圧が良くなってきたそうです。この作者や「マクガバン報告」の作者も意図していなかったのに持病が治ったそうです。私は今、抗がん剤の最中なので参考にならないかもしれませんが、食生活を変えたら体重が減って筋肉が増え骨密度も今のところばっちりでベスト体重になりそうです。(但し小魚やごま、のりなど他のものでカルシウムを補ったり大豆製品をしっかり取るようにしています。)
がんになる前、ダイエットで苦労していたときにこの食生活にしていたらと思うと本当に残念です。とはいえ、がんになったからあっさり信じて実行することができたのかもしれません。今はこの本が私の闘病のバイブルです。この作者の言うように心臓病なら栄養指導や運動療法があるのになぜがんはないのでしょうか。がんの少ない国からがんが多い国に移住するとその国で多いがんになりやすくなり、更にがんの大きい原因の1つが食生活だといわれているのにかかわらず、です。検診が必要なら同様に食生活や生活の見直しがもっと声高に言われるべきなのではないでしょうか。同時に読んだ「葬られた第2のマクガバン報告」は栄養学の権威といわれる人が書いた本ですが、同じようなことが同様に科学的に書いてあります。(但しこちらはさらに動物性たんぱく全般について言及してあります。)この本の影響かわかりませんがアメリカではがんによる死亡が下降気味になってきたそうです。日本では増えているのに。
がんになった人、なりたくなくて食生活について興味がある人には本当に心から参考になる本だと思います。