伊丹十三DVDコレクション 静かな生活
大げさではなく、称えるわけでもなく、ただイーヨーの美しさが心に迫ります。私は、一言の言葉が持つ限りない世界に心をつかまれるような心地でした。映画の最後に、イーヨーが「静かな生活」と言ったとき、何ともいえないきれいなものに包まれると思います。
メイキングもとてもいいです。大江光さんご本人が撮影現場を見にくるのですが、光さんのある言葉に渡部さんが泣いてしまいます。この場面は、イーヨーだけでなく出演者はじめ製作者の方たちの感受性の豊かさや美しさに、胸がいっぱいになりました。劇中に使用される光さんの曲も素晴らしいです。
死者の奢り・飼育 (新潮文庫)
初めて読んだ大江作品です。
一発目の「死者の奢り」でいきなり衝撃を受けました。
その場に居合わせているような臨場感。濃褐色のプールに漂いひしめき合う死体。変色しつつも引き締まり、しっかりと形を保つゴムのような弾力を伴う死体。そんな映像が鮮明に浮かんでくるのです。文章を読むことで、ここまで鮮明な生々しい映像が浮かんできたのは初めての経験でした。また活字を読むことで、ここまで明確に嗅覚を刺激されたのも初めてです。
大震災のなかで――私たちは何をすべきか (岩波新書)
地震後4か月が過ぎ、被災地に住む私たちにも、政府や、県、行政の取り組みの遅さばかりが目についている。被災後の罹災証明の調査も遅れ、異議申し立てに相当する、第2次調査や、第3次調査などは遅れる一方であり、そうした中で、修理したくても、なかなか修理できない現状がある。本書は、かつて自分が阪神大震災で大きな被害を受けた内橋克人氏をはじめ、ノーベル文学賞の大江健三郎氏、派遣村で有名になった、湯浅誠氏、経済学者の金子勝氏など日本の良心といってもよい人たちの震災と復興へのエッセイ集である。被災者として打ち沈む私たちに希望の光を与えてくれた書であり私たち日本人が今後何をすべきかを指し示すまさにバイブルであった。
読む人間 (集英社文庫)
集英社文庫から出ている『「話して考える」と「書いて考える」』も良かったですが、本書も講義を文章化してあり会話体で書かれているため読みやすく、内容も本格的な文学作品を身近に感じられるように易しく語ってあり、面白かったです。
第一部「生きること、本を読むこと」では、少年の頃読んだトウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』(私も大好きなので嬉しい)に感動し「ハックはジムを裏切らなかった、たとえ地獄に落ちても友達を裏切らないような生きかたを自分もしよう!」と子供心に誓ったエピソードや、イギリスの詩人ウィリアム・ブレイクや、エリオット、イエーツ、イタリアの大詩人ダンテ・アリギエーリの作品が大江さんの人生にどう影響してきたのか、またご子息・光さんの成長と自己の文学との関わりなどを通し、人生の場面場面で文学作品をどう読み、それらの経験を元にどのようにして作品を書いてきたのか等が述べられ、第二部「死んだ人たちの伝達は火を持って表明される」では友人エドワード・サイードの伝記映画『OUT OF PLACE』や著作『文化と帝国主義』『後期のスタイルについて』を中心に据えて読書について語られます。
子ども時代いじめられっ子だったというお話(ナポレオンも周恩来もシェリーも、偉大な人は大概いじめられっ子ですね)や、自殺された永年の親友伊丹十三さんとの逸話も率直な語り口で述べられます。
『神曲』に関しては、大江さんお勧めの研究書(洋書)や英訳本・邦訳本、イギリスの学者ラスキンのダンテ評までが紹介され、また<地獄編><煉獄編>の大まかな粗筋と大江さんの好きな場面まで語られていて力が入っています。この本を読んでいたら『神曲』が読みたくなってしまい、さっき集英社の文庫版を本棚から出してきました(笑)。
洋書の読み方について語られている箇所では、辞書を引いて最初に出ていた意味に飛びつくことを戒め、その単語の複数の意味を根気強く調べ当てはめて訳文を作ることが大切である、と助言されていて「大学でも先生にそれを言われたなあ・・」と思い出しつつなかなか怠惰な読み方が治らない自分は非常に耳が痛く(笑)勉強になりました。
本文中で、作家界にも対立とか批判があり、自分は生意気な作品を書いていたからよく攻撃されて孤立していたということや、若い知識人に冷笑されることがあるなど様々なシーンでの老純文学作家の悲哀が書かれていましたが、私は若いファンの多い村上春樹より大江健三郎派ですし(笑)大江さんは今71歳ということですが、これからも不遜な外野の野次を吹き飛ばしながら文筆業に励まれ、我々に素敵な本を読ませていただきたいです。
飼育 [DVD]
東京から疎開してきた子供が腹を空かせて
他人の家のお釜から、まだ炊き上がっていない
ドロドロの米を手ですくって盗み食いするような
状況のなかで、庄屋(?)を演じる三國連太郎は
終始豆をくちゃくちゃ食っている。
東京大空襲の炎で空が真赤になっているのを
疎開先である北関東の山村から子供たちが眺めている。
地元の子供が東京の子供に一言。
「おまえの母ちゃんも、きっと焼け死んでるぜ!」
教科書的には戦時中から終戦にかけて悲劇は全国民一様に
訪れたかのような印象を抱いてしまうが、
そんなに単純なものではないことを、見せつけられる一品。