密室キングダム
五つの密室事件が扱われている本作。
第一の密室は、いわば“三重密室”。その最終ラインは、出入り口のそばに居た
人々による“視線の密室”なのですが、犯人は、心理的仕掛けをほどこすことで、
思いもよらない密室からの脱出方法を隠蔽しています。普通なら禁じ手と言える
その脱出方法を成立させるために、“三重密室”を構成することでカムフラージュ
しているのが秀逸です。
第二の密室は、茶室の襖に、木の枝とはさみを刺すことで構成した“和の密室”。
形態だけでなく、動機も他の四つの密室とは異質で、その切実さが胸を打ちます。
第三の密室は、犯人が構成した密室の外側に死体があるケースで、密室
内部に容疑者が倒れているという、カーの×××的趣向も採られています。
よく練られた独創的な物理トリックが用いられており、感心させられました。
第四の密室は、椅子に縛られた被害者を残し、直前
までいた犯人が、密室から忽然と消す、という趣向。
古典的な小道具が用いられているのですが、
それを気取らせない隠蔽の仕方が秀逸です。
第五の密室は、暖炉に頭を突っ込んだ謎の男
を残し、犯人が密室から消失するという趣向。
密室の扉に貼られていたイシスの紙が、装飾の意味だけでなく、脱出する
うえで、実効的な影響も捜査陣に及ぼしていたというあたりが素晴らしい。
真相は、第一の密室と同様、普通ならアンフェアのそしりは免れない代物なのですが、
「顔を焼かれた謎の男」といった存在を導入することによって、ギリギリのところで反則
にはしていないのがお見事です。
本作は、圧倒的なボリュームと大時代的な世界観で、明らかに一般受けはしない
でしょうが、愚直なまでにトリックとロジックを追究する真摯な作風は、近年、希少
であり、評価されるべきだと思います。
3000年の密室 (光文社文庫)
著者のデビュー作
3000年前のミイラから仮想現実の話まで
壮大な展開をみせる本格ミステリ
弥生時代が約500年なのに対し
縄文時代は一万年も続いた
縄文人というと野蛮であるという偏見をもっていましたが
ゆったりとしたライフスタイルであったとのこと
情報量が豊富で面白かった
比較的淡々とした文章で綴られており
壮大な時を巡る話にぴったりだった
その反面、
登場人物に若干、感情移入しづらいかも
密室キングダム (光文社文庫)
密室オンパレードの本書は、密室好きにはたまらない作品であり、いまのところ著者の最長、最高のミステリである。
とにかくタイトルからして挑戦的だし、その心意気や良し、というところだ。
そしてその意気込みは、みごとに成功している。
この手の作品が好きな、私のような本格マニアにとって、本書は極上の一作である。たしかにロジックに甘いところもあるし、トリックにも強引なところがある。
でも、それでも徹底して密室にこだわったミステリは、今どき珍しい。
著者の作品は幾つか読んだが、私の肌に合うものと合わないものとがある。
本作は、肌に合った。
密室ということもあるが、謎の提出がストレートであり、不可能興味満点のところと、それがきれいに解決されるところが良い。
大作だから、手にとるのに躊躇するかもしれないが、かなりスラスラ読めるから、意外と早く読み進められる。
文章は平易で分かりにくいところもない。
本格好き、密室好きは一読に値する作品である。
殺意は幽霊館から―天才・龍之介がゆく! (祥伝社文庫)
御値段も手ごろで,それ程ボリュームもないし,手軽にサクッと読むのにはちょうど良い作品です。ちょっとした推理クイズのような感覚で楽しむには良いかも。この作者の作品ですから,一応水準はクリアしてるとは思いますが。ページ数がページ数ですから,あくまでもそれなりだと思います。
時を巡る肖像 (実業之日本社文庫)
絵画修復師、御倉瞬介を探偵役にした連作短編集です。
この物語は、瞬介の亡き妻シモーヌの思い出や、忘れ形見の七歳の息子圭介の存在、男性家政婦加護との生活など、風俗部分の描写に重点が置かれている気がします。
ただ、そのために「瞬介」が主役になった文章になっていて、探偵自身の心のもろさや、自信の無さもそのまま描かれているので、そのぶん、
探偵の迫力は弱まってしまうのじゃないかな、という気がしました。
この本の謎の解決は、この作家にしては全体に地味な印象を与えますが、「絵画」という題材にうまく連動していると思います。
シモーヌという女性の人物像が主題になった物語や、圭介少年の母親への気持ちのエピソードなどは、この本には入っていません。
そのため、「この物語はこの本ではまだ完結していない。」という印象を受けました。
この実業之日本社文庫には、作者あとがきや、解説文などがはいっていません。私はそういうものを文庫の楽しみにしているので、それがちょっとさびしい気がしました。