血引きの岩 (ソノラマコミックス)
旧朝日ソノラマ、現朝日新聞出版社刊の『ネムキ』に2002-2004年、非定期掲載された連作短編「血引きの岩」シリーズ4編を中心とした短編集です。
内容は日本神話を基に黄泉の国の封印が開き、死が日本列島を席捲する危機を神に選ばれたと思しき女性が防ぐ伝奇ホラーアクションです。
心の傷を隠しながら他者を助ける為に奔走する慈母的女性キャラクター、御巫(みかなぎ)が魅力的です。
星野氏がスターシステムを発動し、ブルーシティ・シリーズのドクター・ジェノサイド、ヤマトの火シリーズの広目と同系の美形キャラクターが主人公を助ける法力を持った僧侶「慈厳」として久々に登場します。
作者のホラーに関する考えと自省を読む事が出来る前書き「著者のことば」付きです。
他の収録作は以下の2編。
ぶんか社ホラーM1995年掲載「マレビトの仮面」
潮出版社COMICトム1993年掲載「土の女」
単独で読むと充分恐く面白い作品ですが、氏の素晴らしいデッサン力と硬質のペンタッチがおどろおどろしいホラーには少々不向きで、損をしています。
但し「宗像教授伝奇考」等の伝奇推理アクションに超現実的な怪異や物の怪を加えた内容は充分水準以上の出来です。
第3話の冒頭、死の世界の黄泉醜女達による飛行機への襲撃シーンのアクションは見事です。
紙質は良いがカバーが付かないコンビニコミック形式で、このサイズ、厚さの単行本としては廉価でした。
THE SEA OF FALLEN BEASTS 滅びし獣たちの海 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)
星野さんの世界観が広がる作品群だ。
宇宙(そら)よりももしかしたら海の方が深遠な世界が広がっているのかもしれない。
地球とはそういう惑星なのだ。
「星を継ぐもの」で現在注目中だけれども、過去の作品群のクオリティも高すぎるくらい高いのだ。
星を継ぐもの 1 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)
「ムーンロスト」終了以来約7年ぶりとなる、待望のSF長編作品です。星野先生のSFが大好きなので、すごく嬉しいです。単行本が出るのが待ち遠しかった。星野先生がJ・P・ホーガン先生の小説に挑むのは、1993〜94年発表の「未来の二つの顔」以来2度目です。
月で宇宙服を纏った死体が発見され、調査の結果それは何と5万年も前のものだと判明する。いったいこの死体は何者なのか?我々と同じ人類か、それとも異星人なのか…!?という導入部から夢中にさせられる。そこから驚くべき事実が次々と明らかになり、ついにはかつて太陽系で繰り広げられたであろう壮大な歴史が紐解かれてゆく…。キャラクターも、偏屈でいかにもな学者肌のダン・チェッカー教授、それとは対照的にフランクでかっこいいハント博士ともにいい味出してます。
自分は原作は未読で比較は出来ないのですが、この雄大な構想力には脱帽です。科学的な知識や理論も随所に盛り込まれている。これは正真正銘の、ロマンに満ちたハードSF超大作です。このようなテイスト、スケールの小説を漫画化するというのは極めて困難を伴うはずです。連載開始にあたってはかなりの覚悟を持って臨まれたのではないでしょうか。絵も近年になく力が入っており、宇宙や惑星の描写、メカニックも本領発揮といった感じです。
これからどのような驚きを見せてくれるのか想像もつかない。完結のあかつきには、またもや代表作の誕生ってことになりそうだ。
星を継ぐもの 2 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)
星野之宣には初期作品(たとえば『巨人たちの伝説』『2001夜物語』)の頃から、「科学的にでたらめなアイデアを説得力ある画で描く」残念な漫画家という印象を持っている。
たとえば『2001夜物語』の「レーダー電波の電子」という名台詞などは、今なお語り草になっているほどだ。
そうした「残念」なところは、この作品においても相変わらず健在である。
1巻のブラックホール兵器とか、この2巻冒頭の「月のない地球」をめぐる科学者たちの議論などの、星野氏オリジナルの要素にそれが強く出ているのは、もはや芸風と呼ぶべき域に達している。
他のレビューで高く評価されている、この過去の地球の姿の議論は、おそらくニール・F・カミンズの『もしも月がなかったら』から借用したものと思われるが、ホーガンの原作のアイデアと組み合わせるのは、はっきり言って無茶である。
月が潮汐力によって地球の自転を減速させ、同時に月が地球から遠ざかっていることは百年以上前から知られており、一日の長さの変化も精密に測定されている(サンゴの化石から、過去の一日の長さの変化もわかっている)。たった5万年で自転周期が8時間から24時間に延びるというアイデアは、少なくとも地球においては成立しえない。
ホーガンの原作自体、そうした矛盾を承知の上で、わざとアイデアの問題点を書かずに避けて通った気配すらあるのに、それをわざわざ物語の表舞台に引っ張り出して、しかも全体の見せ場にしてしまったこの漫画にはまさに、「残念!」と言うしかない。
(『もしも月がなかったら』のように架空の惑星の話にすれば、説得力を損なうことなく作品にできたのに……)
もちろんフィクションが科学的に厳密でなければならないなどと言うつもりは毛頭ない。星野之宣自身、「科学的に間違っていても物語として面白い方をとる」と発言したことがある。科学的な間違いを承知の上で、フィクションとして楽しむという立場は当然あっていい。
しかし、このアイデアを「説得力がある」とか「ありえた過去」と評価するレビューが現にある以上、「間違ってるよ」と指摘する者が一人くらいいてもいいと思ったので、あえて野暮なツッコミを入れさせてもらった次第である。
しかし、なんだかんだ言っても、私はこの漫画家を愛している。それは創作全体を通して、SFというジャンルに対するリスペクトがあるからだ。
デザイン全般や宇宙の描き方から見える、『2001年宇宙の旅』への愛、多くの作品にみられる過去の名作SFのオマージュ、それらはこの作品にもはっきりと表れている。たとえば第9話のタイトル「狂風世界」とか、73〜74ページに描かれたシーンがそうだ。
(クロマニヨン人が月に矢を放つ画から木星に向かう宇宙船の画につなぐ場面は、『2001年宇宙の旅』の、ヒトザルが放り投げた骨のカットから宇宙船のカットにつなぐシーンのオマージュである)
それになんといっても、カラーの絵が素晴らしい。口絵の木星を背景にしたガニメデもいいし、ひろげたカバー絵は美術館に展示してもおかしくないと思えるほどの出来栄えだ。
星野之宣にはこれからも本格的SF漫画を描き続けていってほしい。
残像 (MF文庫)
~小説、映画、漫画、アニメ等分野を問わず、日本の作家が世に出したSF短編の最良の一遍と言える。
SFのアイディアも秀逸、そして本編を通した叙情性。
主人公の擦れ往く想い出が、SFならではの一枚の風変わりな写真を通し、一気に心の裡から溢れ出す様は素晴らしいの一言。そして最後に伝えられた事。
クラーク等のSF小説のファンにも誇りを持ってお勧~~め出来る素晴らしい一編です。~