ナイトランド 創刊号
スコッチ・カースン「ルイジアナの魔犬」
山田章博の扉絵が良い。ティンダロスの猟犬と戦う話だが、M−16の射撃で射殺出来るとは知らなかった。ティンダロスでなら殺す事も可能だろうが、こちらの時空では物理法則が異なるので不死身に近いかと想っていた。
魔犬の原題はHellhoundsとなっているが、実はクトゥルー神話ではティンダロスの猟犬とは別の存在がこう呼ばれる事もあるらしいので、少々厄介。だが、ティンダロスから来ていると云うし、球体の部屋(つまり角度が無い)が出て来たりするので、矢張りティンダロスの猟犬なのだろう。
ティム・クーレン「沼地を這うもの」
楢喜八さんの扉絵が良い。ホジスンの「異次元を覗く家」も妙に軽いイラストに変えられてしまったし、この人の挿絵をハヤカワSF文庫に復活させて欲しい。
作者は近年ラヴクラフトの「狂気山脈」の続編にその続編を長編で出しているが、その内容はアメリカ大作映画風で文庫で上下二分冊で出る割にはボリュームが感じられずアッサリ読めてしまいあまり中身も印象に残らない・・・と云った作品タイプで、下品な罵り言葉を多用した会話や、「狂気山脈」で滅び行く哀れな種族だったOld Oneを只の悪役にしてしまったりで、シリーズとしては今も続いているがあまり好きになれず、又、ヒアデス星団へ向かった宇宙船がとある惑星で発見した異星人の廃墟でハスターらしき存在に遭遇し襲われる短編も知ってはいるがそれ程好きになれるものではなかったのだが、この作品はまるで違う。ラヴクラフト作品の要素がふんだんに取り入れられていてオマージュとして良く出来ている。どうやら幅広い作風の作者らしい。一筋縄では行かないな。
グリン・バーラス&ロン・シフレット「ウェストという男」
作者の一人シフレットは、クトゥルーのセミプロジン界では名前の通っている人物で、書き手としてはオカルト探偵ものが得意で、シリーズ・キャラクターも居るが、中でも20世紀前半のアーカムを舞台に、インスマスのレストランでウエイトレスをしていたアーカム美人を秘書にした古き良きパルプノワール風の探偵のシリーズが面白い。
本作はハーバート・ウェストを悪役に「いかにも」な感じの軽妙な文体で進むオカルト・ノワール。
レイフ・マグレガー「ダイヤー神父の手紙」
キリスト教の反進化論論者達を書簡のみで構成した抱腹絶倒の小品。真面目に書簡の内容を読んで行くといきなり・・・
サイモン・ブリークン「扉」
ドリームランドものをも想わせる様な短編。真相は構成からすぐに予想がつくものの、美事。
ロバート・E・ハワード「矮人族」
ハワードのピクト人もの。初期の作品らしいが後に原稿が一部失われた状態で発見され、そのまま発表されたものの翻訳。途中が抜けているが、それでも作品の魅力は損なわれておらずハワードならではの迫力がある。メインとなる兄妹の姓がコスティガンだが、ハワード作品の主人公には幾人ものコスティガン(男性)があり、本作の主人公である兄のコスティガンが、それ等のうちの一人なのか、新たなコスティガンなのかはよく判らない。
ラムジー・キャンベル「コールド・プリント」
「暗黒星の陥穽」ではヰゴローナクと表記(福岡洋一:訳)されているイゴローナク自体が登場し、アイホートの名前が初登場する作品。
自己中心的な雰囲気を漂わせる本好きの主人公がイギリスのブリチェスターで(町の真ん中で)遭遇するクトゥルーものにしては珍しいクリスマス・シーズンの作品。イゴローナクが人間大の存在でしかも自分の司祭を自らスカウトしており、人間との会話も可能な事から、寓話的な都市奇談と云った趣がある。
朝松健「The Faceless City #1 狂雲師」
星辰が元に戻りクトゥルーが覚醒した後のアーカムを舞台にしたハードボイルドな雰囲気の作品。連作となるらしいが、主人公が神野十三郎・・・って、逆宇宙シリーズ二作で主役の一人だった?これは続きが楽しみ!
コリン・ウィルソン「魔道書ネクロノミコン 捏造の起源」
筆者が執筆したネクロノミコンの執筆裏話。笑った。ジョージ・ヘイがL・ロン・ハバートの一番弟子だったと云うのも初めて知った。
西崎憲のエッセイや、立原透耶、鷺巣義明と云った諸氏のコラムも面白かった。
マット・カーペンター(!)のクトゥルー・インフォメーションも、こんなのが出ていたのか、と云った感じで実に有用。
さて、次回、夏の号は6月半ばの発売予定。今から楽しみだ。
ぬばたま一休 (朝日文庫)
朝松健氏は現在のライトノベルズの興隆の先鞭を築いたパイオニアで、挿絵画家の技量の影響を受けない数少ない文章で勝負できる作家である。 室町時代の持つ独特の雰囲気を伝える伝奇小説は故山田風太郎氏の室町少年倶楽部など数少ない。 一休宗純を今までの既成観念にとらわれない新しい解釈で描いた伝奇小説群の最新作で、初めて朝松健氏の作品を読む方にもお勧めです。
蒐集家(コレクター)―異形コレクション (光文社文庫)
世にも稀なるものを蒐集することに憑かれた人たち。
蒐集する行為が引き寄せてしまう人外魔境の妖しの世界。
書き手によって様々に料理された短篇の妙味を、随所に感じた。
特に印象に残った作品は、浅暮三文の「參」と、中島らもの「DECO-CHIN」。
前者は、摩訶不思議な漢字が繋がっていく趣向が面白かった。
後者は、急逝した中島らもさんが事故三日前に書き上げた遺作。書き手の魂が作品にこもった傑作。読後、「これは凄い!」と唸った。
この二作以外では、夢枕 獏の「陰陽師 蚓喰(みみずく)法師」、北原尚彦「愛書家倶楽部」、沖方 丁「箱」、早見裕司「終夜図書館」、飛鳥部勝則「プロセルピナ」に、◎を付けた。
今まで読んだ「異形コレクション」シリーズのなかでも、上位に置きたい一冊である。
この手のホラー小説、ダークファンタジーのアンソロジーがお好きな方に、ぜひ御一読をとお薦めしたい。
教室―異形コレクション (光文社文庫)
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弧の増殖 夜刀浦鬼譚
クトゥルー神話の諸設定、特にラヴクラフトの『闇に囁くもの』の諸設定を元にした、現代的な恐怖譚。『闇に囁くもの』は、大好きなラヴクラフト作品の中でもとりわけ「宇宙的」で、私の特別なお気に入りの一つだ。これはそれを元にした物語だからたまらない。あちこちで密やかに張られた原作品へのリンクが、いちいち楽しいし、それにすぐに気がつける自分が、ちょっとばかり誇らしくもある。序盤に出てくる「暗号」も、登場人物たちより一足早く解けて、とてもいい気分だった…もっともこれもまた、初めからファンに先読みされるのを前提として用意された、楽しむための「仕掛け」で、作者の掌の上で転がされていることには変わりないわけだがw。
『闇に〜』で効果的に使われているのが、手紙や蓄音機などの通信や最新メディア機器、そして新聞記事に載る都市伝説的なエピソードだ。この物語ではそれを踏まえて、ケータイやパソコン、サーバー施設、あるいは都市伝説の携帯サイトなどがふんだんに使われ、重要な役割を果たす。そしてそうした巧妙な現代への「翻案」が、この作品の恐怖を身近な「今ここにある恐怖」に変貌させ、より鮮烈で迫真的なものにしている。そしてその鮮烈さと迫真力は、別にクトゥルーファンでなくても十分に堪能…というより戦慄…できることだろう。
あまり書きすぎるとネタバレになってしまうので、ここでは仄めかす程度にしか書けないが、他にも「ケーブル」や「雑音」も恐かったし、他のクトゥルー作品の呪文やフレーズとの「暗合」にもゾクゾクさせられる。そしてそれらが独特の「異化された表記」で登場してくるところがまたたまらなく恐い。
とにかくその恐怖の「現代性」と「鮮やかさ」が印象に残る。ラブクラフトを同時代に読んだ人は、きっとこんなふうに恐かったんだろうと思わせる、そんな一冊だった。