恋しぐれ
本書は、『銀漢の賦』や『秋月記』などの
歴史小説で知られる著者による連作短編集。
江戸時代の俳人・与謝蕪村と、
上田秋成、長沢蘆雪など彼の周りに集う人々の諸相を、
重厚ながらも繊細な筆致で描きます。
芸妓と恋に落ちたがゆえに藩を追われ、
俳人として生きる男を描く『隠れ鬼』
江戸期を代表する画家・円山応挙と、
彼のもとに弟子入りした若夫婦を主人公にした『牡丹散る』
―など、どの収録作も味わい深いのですが、とりわけ印象的だったのは
蕪村がはるか年下の妓女に恋をしたことから起こる騒動と、
その後を記した『夜半亭有情』『梅の影』です。
天明期の文化人たちの不思議な縁を大胆に描くとともに、
彼らの繊細な心情をその作品と鮮やかに対比させる本書。
蕪村や歴史小説に興味がある方に限らず、
多くの方にオススメしたい著作です。
蕪村俳句集 (岩波文庫)
気のせいか、蕪村の句には、漢数字を織り込んだ句が多い。
みじか夜や六里の松に更たらず
さみだれや大河を前に家二軒
飛び石も三ツ四ツ蓮のうき葉哉
蓮の香や水をはなるゝ茎二寸
ゆふだちや筆もかはかず一千言
こがらしや何に世わたる家五軒
蕪村の句には、おどろきがある。
斧入て香におどろくや冬こだち
短夜や金も落とさぬ狐つき
やどり木の目を覚したる若葉かな
稲かれば小草に秋の日当る
風吹ぬ夜はもの凄き柳かな
目前をむかしに見する時雨哉
化さうな傘かす寺の時雨かな
蕪村の句には、色のパワーがある。
ころもがへ塵打払ふ朱の沓
目にうれし恋君の扇真白なる
芭蕉俳句集 (岩波文庫)
本書は芭蕉の作と明らかに認められる発句を制作年次順に配列している。927句最終句は「病中吟」三句ではなく、年次不詳等も含め、「別ればや笠手に提て夏羽織」
参考として存疑の部576句、その中には金比羅裏参道の芭蕉句碑「花の陰硯にかはる丸瓦」も含まれている。誤伝と明らかにされている発句も初句の五十音順で付け加えている。「おくのほそ道」で曾良の句としている「かさねとは八重撫子の名成べし」もここ誤伝の部208句に入れている。芭蕉の代作と説が多く、その可能性が強いと言われているので、存疑の部に入れるのがいいのかもしれない。
芭蕉発句集編纂には二つの場合が考えられる。一つは門人たちが芭蕉追慕の意をもって遺詠を蒐集しようとする場合、他は蕉風の亀鑑として作句上の粉本とする場合である。また、鑑賞を目的として編まれる場合は、注釈書の形をとっている。その間に存疑・誤伝が混入するのは避けがたい。本書はそれをさび分けようとする芭蕉俳句(発句)集成の貴重なテキストである。