Emperor ランキング!

Emperor 白夫人の幻 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1789)

舞台となっている時代の風俗がほぼ忠実に描写されていて感心する。
この作品は登場人物が役者ぞろいで面白い。「楼の悪夢」の蟹・蝦コンビも良かったが女力士の良もいい。
このシリーズは書き込みが足りなくて折角の設定が生かされず、もったいないと思うことがままあったが、
これは密室などの探偵小説に求められた謎がないせいか(ものたりないものの)すっきりまとまっている。
ただ、クライマックスにかけて仮説を並べすぎたこともあって緊張感が盛り上がらなかったのは残念。
訳は言葉の使い方にまとまりがなくて困る。
巻末の解説には重要な手がかりに繋がる骨牌も取り上げた方が良かったのでは。 白夫人の幻 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1789) 関連情報

Emperor 病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘 上

さまざまな感染症が駆逐され、寿命が急激に伸びた現代において、圧倒的な存在となりつつある病、がん。
本書は、その「がん」と闘い、そしてがんとは何かを理解しようとしてきた人類の歴史を見せてくれる。

サブタイトルには「人類4000年の苦闘」とあるが、古い話は第一章でほんの少し出てくるだけ(そもそも「がん」は古代にはほとんど記述に表れていない)で、基本的にはここ200年のがんとの闘いがメインである。
がんの治療は、とにかくどのような方法であれ健康な人体をも傷つけていくものとして発展してきた。
腫瘍を持つ部位を取り除くのは現代でも行われる方法だが、がんに関する詳細な知識がない時代には、転移を防ぐために乳がんの手術で鎖骨まで取り除くような方法が実に1930年代まで行われていた。
また、放射線治療もまた一つの主要な治療法だが、これもまた放射線を当てすぎれば逆に正常細胞のがん化が起きてしまう。
化学療法はこれらよりは穏健に見えるが、それでも副作用もすさまじく弱っている患者を逆に衰弱させてしまう面もあり、多量の化学物質を入れれるわけではない。
そして、すべていったん治ったと思っても転移による再発がある(これを防ぐために、すでに治癒したように見える患者にも継続的な化学療法を施していた医師がクビにされた話なども出ている)。

がんの治療法については、その効果の検証を行うのが困難な場合が多い。
大規模な比較調査を行わなければならないわけだが、被験者の選び方や方法次第で簡単にバイアスされた結果になってしまう(本書でもさまざまなタイプの失敗が紹介されている)。
効果の検証には治療を行ったグループと行わなかったグループとの比較が必要なわけだが、特にすでに広まっている治療法の場合、治療を行わないグループに割り当てられたらたまったものではないので、調査協力者が集まらなくなってしまう。
しかし慎重な検証が必要な一方で、患者は効果が確立されておらず副作用があるにしても、まさに今すぐに投薬される必要があり、科学と治療の間で板挟みが起きる。

がんの原因の解明も、曲がりくねった長い道のりがあった。
「ウイルス原因説」と「化学物質原因説」での対立は長く続いていたが、ウイルスが原因のがんは実はごく例外的な特殊ながんだけで、化学物質もその経路が分からないままであった。
生物に本来内在する要因が表れているという説は少数派であったが、しかしがんの原因の遺伝配列が次第に見つけられていき、さらにそれらが正常細胞にも幅広く存在していることも併せて明らかになった。
がんはむしろ「がん化抑制の失敗」として起きている、という病像が次第に見えてきた。
がん細胞に特有の異常経路は、今のところ13個ほどというところまで突き止められているという。

がんという捉えどころのない病にいかに立ち向かってきたか、が非常に読みやすく引き込まれる記述で書かれており、一気に読まされる。
純粋科学から社会的な問題(予算獲得や禁煙予防など)まで、がんという軸を通して語られる医療の縮図的歴史は非常に面白い。
本書は若年のがんが中心で、今後増加するであろう老化によるがんについてはあまり記述は多くないが、それはこれからの医学が明らかにしていくところでもあるのだろう。
秀逸な科学ノンフィクション。 病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘 上 関連情報



人気動画!