さわやか+11
麻丘めぐみと言えば、1970年代を代表するアイドル。つい先日も、NHK総合の「金曜バラエティー」に出演して「わたしの彼は左きき」と「芽ばえ」を披露なさっていましたが、その健在ぶりが近頃とみに印象的です。このアルバムCDは、その麻丘めぐみさんのファーストアルバム『さわやか』(1972年8月発売)に、あまり知られていないオリジナル作品(1973年11月発売『ベスト・コレクション74』の一部)を加えた構成からなっています。
まず、後半のオリジナル作品10曲のできばえが、かわいいアイドル・麻丘めぐみのイメージ通りで、とてもすばらしい。「マリアの涙」の透明感、「クラスメイト」や「友達の恋人」の躍動感をはじめとして、どの歌もなかなかのもの。発掘されたお宝です。
しかし、やはり本当の聞き所は、オリジナルの『さわやか』12曲。当時、民放テレビ局のオーディションをのきなみトップ通過したという実力は、アイドルの歌唱の域に留まるものではありません。「としごろ」「素晴らしき16才」「たそがれ」などで見せる迫真の表現力は、ミュージカルの舞台を見ているような錯覚すら覚えます。「海辺の白い家」「希望の旅」といった競作・カバー曲も、独特の爽快感にあふれていて、16才の時点ですでにこれほどの実力があったのかと誰もが驚嘆させられることでしょう。
このアルバムをしっかり聞いて、もう一度あらためて冒頭の「芽ばえ」を聞くことをおすすめしておきます。ファーストシングルとして大ヒットしたこの歌に込められた深い陰影が、若々しさの奥にきっと見えてくるはずです。古くからの麻丘めぐみファンは、おそらくこのアルバムのレコード盤をすり切れるほど聞いて応援していたんですね。
筒美京平 ULTLA BEST TRACKS / SOUL & DISCO
もしオレが、いわゆる“京平ディスコ/ソウル”のオムニバスを作るとすれば、岩崎宏美の「シンデレラ・ハネムーン」とか、桜田淳子の「リップスティック」とかも入れて、もっとガチムチ……いや、ガチガチに鉄壁な構成にして……とか考えると思うんだけど、このアルバムはその辺ちょっと違っていて、余裕というかすき間みたいなもんがある。1曲めのインストのカッコよさに度胆を抜かれたあと、前半は手堅い感じの楽曲が続くが(優雅―ユウヤ―の2曲がいい。京平さんの作品を多く歌った彼女は、単独CDも出ているので、ぜひチェックを…)、ちょっと酒やけしたような歌声が魅力的(?)なシェリーが登場するあたりから、通好みというか、微妙にB級っぽいテイストの楽曲が混じってきたりする。そして実は、サウンドとかバリバリにバタくさいのに、聴いてて頭に浮かぶのは盆踊りの光景だったりするような、豪華なセンで行こうとして、ちょっとだけハズしちゃった? みたいに一見みえるような(タクシーの座席みたいな感じか)、こういったラインの楽曲にこそ、京平さんの真髄があるんじゃないか、なんて気もする今日この頃ではある(ちなみにB級ラインの筒美作品では、小川みきの「燃える渚」あたりが最高峰なのではないかと、個人的には思っている)。
何はともあれ、全編―約67分―ノリノリなのは確かであり、下世話なとこもあるが決して下品にはならず、今後ダサくなることもきっとない、そんな京平サウンドが満載された1枚だ。
環境野郎Dチーム vol.1 [DVD]
久々に驚愕的な番組でした。最近各所でとりだたされている環境問題という切り口と、それを皆に啓蒙していこうとするあの団塊世代の豪華キャスト。かなり重く生真面目な番組なのかと思いきや、そこはNHKではなくフジテレビ。面白くなきゃテレビじゃないという思想は脈々と受け継がれており、その計算された構成と“間”そしてそれをありのままに体現することが可能なベテラン俳優など、全ての要素が絶妙に絡み合い、10年いや20年に1回出るかでないかの神番組でした。全国放送ではないみたいなので、放送されてない地域の方も、せっかくDVDで出るんだから、是非見てみてください!\3,990の価値有りですよ!ちなみに私は放送は2回目から見てましたが、絶対買います!
ゴールデン☆ベスト 麻丘めぐみ
これほどの容姿と、甘くやさしい歌声を持ったひとが、
日本ビクター株式会社とうい大手に所属し、一流のスタッフの支援を受け、
たくさんのレコードを残したことは、昭和の奇跡である。
忘れもしない。
わたしが中学一年の時、ベスト30歌謡曲というテレビ番組で、
新人の紹介コーナーで、麻丘めぐみさんは「芽生え」を歌った。
その美しさ、可愛らしさ、笑顔に、眩暈がとまらないほどの衝撃を受けた。
子供心にも「このひとがすべてを変えるのかもしれない」と思ったものである。
めぐみさんは、アイドル歌手の論理の形成期に登場したひとであり、
いわばアイドルの原典のようなひとなのだが、
ボーカリストとしては、南沙織さん以前の世代に属するひとである。
つまり技巧家であり、ちあきなおみさんなどの方に近いと思われる。
そもそもめぐみさんは不思議なボーカリストである。
本来の歌声は、少し暗い方に傾くと思われるのだが、
自在にトーン調整をしているし、曲に合わせてドライな声、ウエットな声も使い分けている。
またドスの効いた歌声も瞬間的にだしたりもしている。
しかし驚くべきは「半シャウト」とでもいうべき歌唱法である。
喉に圧力をかけながら少し鼻にかけて叫ぶように発声するのだ。
既にデビュー曲の「芽生え」からサビの部分で試みているのだが、
「女の子なんだもん」以降からは鳥肌が立つほど官能を刺激するのである。
しかも彼女は高音でも中音部でもこれを使うのである。
「ゴールデン☆ベスト 麻丘めぐみ」は、このめぐみさんの必殺技が満載である。
別にリアルタイムで麻丘めぐみさんを知らなくてもノックアウト請け合いなのである。
アイドル進化論 南沙織から初音ミク、AKB48まで(双書Zero)
テレビ論を専門とする1960生まれの社会学者が、1970年代から現在に至るまでの日本のアイドルの変貌について主に論述した本である。著者のいうところの「アイドルファンの二重の視線」、すなわち「愛着」(あのコのカワイさ・カッコよさをめでる)と「批評」(そのコがどうすれば成長するかアレコレと考える)の力学の変遷を特に重視しながら、一時代を画したアイドルたちの特色が鋭く分析される。「過程」「若さ」といったアイドル論の基本的な主題が的確に提示されているという好印象があるとともに、この40年間のアイドル概史としても参考にしやすい作品であると思う。
後半にいくほど日本社会論的な記述が増えるようになり、モー娘。のブレークは日本社会が世代や性別を超えてコギャル文化を受容するようになった証左とか、SMAPの揺るがぬ人気の背後には、日本人が「がんばる」ことで「洗練された普通」を強く望んでいるという心意があるといった塩梅。この辺の社会批評的な見立てにはやや大雑把な感触があるにせよ、一見解としてはなかなか興味深いところである。
ファンがアイドルと接近しすぎ「ニ重の視線」が機能不全に陥っているというAKBや、ジャニーズファンの欲望の偏差が顕著になったためという嵐の圧勝ぶりなど、最新の事情についても簡単に論じられているが、あまり説得的ではない。また近年のK-POPアイドルの波乱含みの流行などは、本書が提示しているのとは別の論点を持ち込まないとうまく扱えないだろう。とはいえ、そうした不足感を埋めるための議論のたたき台として本書は極めて優れており、またテレビ文化的ノスタルジーをくすぐる読み物としてもたいへん面白い。