血と骨〈上〉 (幻冬舎文庫)
本当に凄まじい小説でした。
多少の誇張はあるにせよ、こんな人間が実在したのかと疑いたくなる様な壮絶な生き様。徒党も組まず一匹狼を貫く姿勢は、潔ささえ感じられる。自分以外の人間は例え血を分けた子供達であっても信用せず、家族は自分が生きる為の道具として見ないその冷徹さ。
全ての欲望に忠実で、生きるということにここまで貪欲である人間を知らない。
タクシードライバー―最後の叛逆 (幻冬舎アウトロー文庫)
やってくれた。
このシリーズは、「狂想曲」も含めれば、全4作ある。
僕は、二冊読破して、次に手に取ったのがこの「タクシードライバー最後の叛逆」である。
いくら10年タクシードライバーをやっていたからと言っても4冊も書けば、どれかひとつ位イマイチな物もあるんだろうなぁ・・・と、思っていたが、まったくの杞憂であった。
骨太で、乾いた文章。
ただ、事実だけを淡々と述べる相変わらずの梁 石日節に魅了され、あっという間に読んでしまった。
相変わらず、面白い。
警察の姑息とも言える道交法違反の実態をこれでもかと言うくらいに断罪している。
確かに、これをそのまま体験したら、僕なんかタクシー運転手なんて辞めてしまうかも・・・。
官憲という権力にも果敢に挑む梁 石日の反骨精神はなんとも言えず、カッコいい。
ただ、飲酒運転に関して寛容な態度示している章があるが、これは・・・、どうなんだろうか?
飲酒を禁止されている他国の人達は、荒っぽい運転で事故は、日常茶飯事だという。
飲酒と、事故との因果関係は果たしてどこまであるのだろうか?と、梁 石日は疑問を呈しているが、コレに関しては、ちょっと日本人には受け入れずらい考えではないだろうか・・・。
僕としては、運転する以上は飲酒は控えてもらいたい。
でも、そんなことも含めて楽しく読めた一冊でした。
血と骨 通常版 [DVD]
これにケチをつけている方々が大勢いらっしゃるのが不思議でならない。細部まで実に気を使った演出、美術。俳優・女優も渾身の演技で間然としない。まさに、この役はたけしでなくてはつとまらない。このようなある意味「人間臭さ」を感じさせる作品は、現代の日本人にはうけないのだろうか。だとすると、残念なことだ。基本的にこれは原作者の自伝的小説の映画化だから、大筋で事実なのだろう。だから、金俊平が自分勝手だったりするのは、当然作者の父親がああいう人だったからで、それ以外のキャラクターを期待してもしようがない。鈴木京香、田畑智子、みんな素晴らしい。私は原作を読んでない。それは原作を読めば映画には描きこまれていなかったいろいろなことも書いてあるであろう。映画の印象というのは、原作を先に読んだのと、そうでないのとでは、相当異なるのかもしれない。しかし、この映画を見ていて、私は在日というものを何も知らなかったのだ、と慄然とせざるをえない。彼らの歴史も、日本の歴史の一部として語られ、また教えられる日が来るようでなければ、おそらく日本はまともな国家になることはできまい。その意味で、この映画がもつ意義は計り知れなく大きいはずだ。片時も目を離すことの出来なかった140分というのは珍しい。
血と骨〈下〉 (幻冬舎文庫)
舞台は大阪。戦前から戦後にかけて生き抜いた、金俊平の人生を軸に書かれた長編小説。
久しぶりに再読したが、初読のときと同じように圧倒された。
蒲鉾工場で働く主人公は、ある女郎を身請けするも、その女から逃げられ、強引に関係した女と結婚した後に家の外
で女を作る。その後、自ら経営に乗り出した蒲鉾工場で大成功を収めるも、その吝嗇と暴力性から、家庭に平和が訪
れることは無い。
主人公の金俊平は圧倒的な肉体を持つ男であり、老人になっても後妻に何人もの子供を生ませる絶倫を誇っていた。
だが、晩年は病魔にたおれ、死の恐怖に怯え、眠れぬ夜を過ごすことになる。
この小説の面白さについて思いつくままに書くと、以上のような感じになる。
1.細部が迫真性に満ちており、作り話という感じがしない。
1.主人公をはじめとした登場人物すべてが、実在性を感じさせる。(実際、主人公のモデルは作者の父親であり、
ある程度事実が組み込まれている部分もあるのだろうと想像される)
1.一種の「家族小説」でありながら、人間の憎悪や殺意が抉り出すように執拗に書き込まれており、その異様さに、
強い興味と関心を抱かないわけにはいかなくなる。
1.物語の中で多くの登場人物が死んでいき、後半では病魔に冒された主人公は迫り来る自らの死に恐怖する。
人にとって共通のテーマである「死」というものについて否応なしに直面しないわけにはいかない内容であり、
通読を迫られる。
人間のグロテスクで度し難い側面を余すところなく描ききった傑作である。
北回帰線 (新潮文庫)
若き日に詩を書きなぐり、その後若くして「事業」を始めるも自堕落な蕩尽の果てに全てを失い、なおも一度味をしめた蕩尽の日々をやめられない自暴自棄の日に偶然店頭で本書に出会い、読み始めたところから雷に打たれたような衝撃を受け、自らも書き始めた、そのきっかけという梁石日氏のエッセイを読んで改めて再評価すべく入手。
確かに本書にはその「過激な性描写」の様な毀誉褒貶の伝説がまとわりつき、作者自身のスキャンダルとともに過去として忘れ去られようとしている感があるが、混迷の現代に語りうるメッセージがある。歴史の1頁として埋もれさせるには惜しい作品。息の長い長編の詩のようでもある…