火宅の人 [DVD]
特筆すべきポイントは2点
・壇一雄の「火宅の人」を映画化したこの作品に壇ふみさんがでてます
・原田美枝子さんが期待以上にいいです。キレイです。あんなにもきれいで豊満で形のいいバストだったなんて、と感嘆してしまいました。
わが百味真髄 (中公文庫BIBLIO)
壇さんは数え10歳の時に母親が出奔し、仕方なく長男として小さな妹たちのために食事をつくらざるを得なかったという経験から「自分でつくる流儀の生活がはじまった」(p.10)という。後年、やはり乳母に育てられたような太宰治と仲がよくなったのも、お互いに母親の愛情が薄かったというところに似たもの同士の匂いを感じたのかもしれない。ぼくは檀さんの良い読者ではないのだが、愛妻物語も放浪生活も「火宅の人」としての生き方も、こうした育ちが影響しているんだと思う。
でも、なぜか太宰と違って壇さんは比較的長く生きられたのか。それは、やはり「自分で食べるものは自分でつくる流儀の生活」という地に足のついた生活をしていたからではないか。
檀さんが太宰の元を訪ねたときのことがこの本には書かれている。太宰が初代と船橋で同棲していた頃だ。太宰は訪ねていくと故郷から送られてきたハタハタを「初代さんに、七輪の金網の上で、次々と焼かせ、手掴み、片ッ端からムシャムシャとむさぼり喰い」という風情だったという。そして檀さんに「食通っていうものは、ただむやみやたらと、こう喰うだけのもんさ」とうそぶくのだが、檀さんはハタハタまで悪食に感じられて気が滅入ったと書いている。
太宰治は桜桃でもどんぶり一杯を食べるのが好きだったというのを読んだことがあるが、それは「食通」ではないし、ましてや「食生活」でもない。この「太宰治に喰わせたかった梅雨の味」の章で檀さんが書いているように「喰べるということは愉快なことだ。自分達の懐ろなみの、材料をさまざまに買いだしてきて、組み合わせ、あんばいし、さて、それがいきいきとした自分達のイノチにつながる行事だと思うと、こんなに楽しいことはないはずだ」ということを太宰は知らなかっただろうし、もしかして拒否していたのかもしれない。
檀 (新潮文庫)
回想録の形を取ったドキュメンタリーであり、家族史小説とでも言えると思う。徹底した聞き取りと裏付け作業が感じられる。
全体的に白黒の家族アルバムを見るような作品だが、鮮やかな色彩を二カ所で感じた。ヨソ子が檀の暮らすポルトガルで「私を歓迎してくれるように思えた海辺の丘の赤い花々も、いつまでも枯れずに色鮮やかに咲き乱れる姿を見ているうちに、荒々しい海にこびる女性の口紅のように感じられ、鬱陶しく思えてくる始末だった」と言う箇所と、檀の葬式に現れた元愛人を見て「入江さんの口紅の色が鮮やかに眼に入った。ああ、綺麗に化粧をしているな、と意味もなく思った。」の二カ所だ。
私には主人公のヨソ子夫人は「古い女性」と言う観が拭えない。自分では否定しているが、やはり妻妾同居に甘んじて、家事と子育てをまっとうする事で夫に仕えて矜持を保つような、そんな忍従や芯の強さのある女性だ。だから先の二カ所の表現に「妻である私がいる意味は違うんだ」というような意気込みを感じた。
そして同時に、そんな妻の支えを期待して甘えてしまっている無頼派・檀一雄を発見する。それをまた「檀に女性の愛情に対する飢餓感のようなものがあった」と受けとめてしまう包容力には、妻の存在を越えた偉大な母性を感じてならない。
檀は大家族の家長としての役目を全うしながら、自分の振幅を大きく保つことで、そこから創作のエネルギーを得ようとしたのだろうか? だとすれば、手段であったはずの「火宅の人」で命が燃えつきてしまったことは、誰しもが思うように無念であったに違いない。一番無念だったのは、ヨソ子さんだったのではないだろうか。
檀流クッキング (中公文庫BIBLIO)
30年以上も前にこんなにいろんな食材を召し上がっていたとは。
好きなものは好き、うまいものはうまいということでしょうか。
気取らない書き口が心地いい。
いくつか作ってみましたが、勘所が巧みに記されていて、自分好みに工夫する余地があって楽しい。
分量が細かく記されたレシピ本ではないので何度か試行錯誤することは必要かも。
奇縁まんだら
文壇を代表する作家をはじめ、著者が接した傑物、奇才たちの忘れがたいエピソード、思い出を記したエッセイ集。大作家と称される人たちの素顔が生き生きと、時に生々し過ぎるくらいの鮮やかさで活写されていて、ぐいぐい読まされてしまいました。
川端康成〜三島由紀夫、谷崎潤一郎〜佐藤春夫、今東光〜松本清張など、続けて取り上げた作家の間に、不思議な奇縁ともいうべき引き合う力が働いているところにも興趣を誘われましたね。
横尾忠則のカラー人物画の妙とも相俟って、著者が言葉を交わしたあの作家、この作家が彷彿と浮かび上がるエッセイとして、これは実に味があって面白い。本屋でぱらぱら拾い読みしていたら、「これはぜひ、家でゆっくり読みたい一冊だなあ」となりまして。で、読みはじめたら、のめり込むように読み耽っていた次第。
本書に取り上げられた人たちは、以下の21名。
島崎藤村。正宗白鳥。川端康成。三島由紀夫。谷崎潤一郎。佐藤春夫。舟橋聖一。丹羽文雄。稲垣足穂。宇野千代。今東光。松本清張。河盛好蔵。里見'ク。荒畑寒村。岡本太郎。檀一雄。平林たい子。平野謙。遠藤周作。水上勉。
初出は、日本経済新聞の土曜日付け朝刊、2007年1月6日〜2008年1月5日。