陰陽師(おんみょうじ) (文春文庫)
説明が必要でないほど有名な作品。
一行に書かれる文字数がもの凄く少なく、
あっという間に読み進めていけそうなのだが、
かえってその行間が余韻を残し、雰囲気がよく醸されている。
和歌や適度に古臭い言葉遣いがあるためかも知れないが、
安倍晴明が式神を使って魚を焼かせたり、または案内をさせ、
いつも源博雅が晴明をたずねてきては、ふたりで酒を酌み交わし、
庭や月を見ながらのんびりと話をする。
最後は博雅が相談を持ちかけ、いざ妖怪退治に出かけるおきまりの展開なのだが、
それが仄かに心地よく、過度な描写や雰囲気作りもないのに、
いっそうその場面や言葉が際立つように感じられるのが素晴らしい。
これを読むと、同じように陰陽師を題材にした鴨川ホルモーが、
ひどく陳腐で滑稽な作品に思われてしまうだろう。
しみじみと浸れて、その名残を愉しめる良作。
魔天楼 薬師寺涼子の怪奇事件簿 (講談社文庫)
アルスラーン戦記でハマって、創竜伝で現代物を読み、どうも作者が「お涼」を楽しんで書いている雰囲気が対談などから伝わってきたので興味を持って読みました。
有り得ない完璧なキャラクター。傍若無人が許されてしまう勢いなど、田中芳樹独特の爽快感はあるのですが……
なんで「怪奇」にしないといけなかったのか、いまいちわからない。不思議な事が起る事や、怪物の出現について登場人物たちが疑問を抱く様子はほとんどない。読んでるこっちが疑問を抱いてしまう。
なんですんなり「非現実」を受け入れてしまうのか。そのあたりを突き詰めて書いて欲しかった。創竜伝もファンタジーだけど、そういう違和感は感じなかったのでこちらは大変残念。