ぼくたちは大人になる (双葉文庫)
進学希望の高校三年生が主人公。よくある青春小説かと思って読み始めたのですが、前半早々に衝撃的な事件が起こって本書のメインテーマが立ち現れ、そこから一気に引き込まれていきます。主人公の揺れる心情、ときに自分をもてあます様子の描写が秀逸。本の帯に「人はしくじるべきときにしくじれるかどうか。」とあります。犯した過ち、他人を傷つけたり傷つけられたりすること、そしてその後の対応――私自身の生き方についても考えさせられました。
主人公の成長物語とともに、もうひとつのテーマとして家族や社会との関わりということがあります。著者の「結婚のかたち」(http://jbpress.ismedia.jp/category/marriage)というタイトルのウェブ上の連載を読むと、著者の考え、バックグラウンドがわかって、小説がより楽しめると思います。最近同じ著者により出版された、中学生が主人公の「おれのおばさん」もよかったですが、個人的にはこちらの方が読み応えがありました。大学編、20年後の再会編(本書を読むと意味がわかります)を読んでみたいです。この著者の、人生に真摯に向き合う姿勢にとても共感を覚えます。
マタギ 矛盾なき労働と食文化
現代のマタギの生活・文化が分かりやすく過不足なくまとまっており、写真も多くて読み応えがありました。
特にマタギの猟の部分では、彼らの卓越した能力が活き活きと描写されており大変興味深いものです。
マタギについて興味をお持ちの方にはお勧めです。
おれのおばさん
ストーリーには起伏があり,涙あり,友情あり,恋もあって面白く読める。
しかし,この本の主人公は一体「おれ」なのか「おばさん」なのか判然としない面がある。
そこに,先週の朝日新聞の書評欄にこの著者のインタビューが掲載されており,本作は,この著者の前作や将来作との連作となる予定とあり,本作は一連の作品の中の1ピースと考えると,納得がいく。
おれたちの青空
「おれのおばさん」の続編。前作の主要登場人物の3人が語り手となり、それぞれの視点による3つの中短編から構成されています。前作の書評でも指摘されていましたが、本作品では語り手の内面描写にさらに重きがおかれ、そのために物語としては物足りなく感じました。けれども作者のメッセージには全面的に共感できます。本文から引用します。「ここではないどこかに理想的な世界があるわけではなく、人生にはこれを達成したらOKという基準もない。そうではなくて、今ここで一緒に暮らしている仲間たちのなかでどうふるまうかがすべてなのだ。」
本作品は主人公たちのさらなる成長への前奏という感じもして、どうしても続編が読みたくなりますが、この作家にはすでに「ぼくたちは大人になる」という、(境遇は異なりますが)別の高校生を主人公とした作品があり、これは物語性もすばらしく、私の一押しです。私事になりますが、私はこの作家とほぼ同年代なのですが、今後もこの作家の新作を読みながら、自分の子供と共に成長していければと思いました。
虹を追いかける男 (双葉文庫)
正直、この作品も作者もまったく知らずに読みました。率直な感想、素晴らしい作家に出会えた、と思いました。純文学スタイルですが、読者を引き込ませる文体で、久しぶりに文体をじっくり味わいながらよむ作品に出会えたという感じです。近い将来ブレイクの予感を漂わせる作家だと思いました。