The Piano Shop on the Left Bank: Discovering a Forgotten Passion in a Paris Atelier
素敵な1冊である。その店はパリの片隅の狭い通りに佇んでいた。閑静な街並に場違いな感もある「デフォルジュ・ピアノ」との名を持つ小さなピアノショップに、アメリカ人の筆者は惹きつけられてしまう。
「パリ左岸のピアノ工房」は、筆者が感じる心情そのままの不思議で謎めいた雰囲気で始まる。スタインウェイ、べヒシュタイン、ベーゼンドルファー、、、。ピアノという楽器が持つ気品と繊細さ、様々な国々から流れてきたピアノたちが集められたパリの裏通りのアトリエ、ピアノへの愛情と蘊蓄が溢れんばかりの調律師、筆者自身のピアノとの関わりと思い出、それらを美しく抒情的に綴る語り口に酔わされる。
"心躍る対象"を追い続ける少年のようなピュアな筆者の気持ち、流行る気持ちを抑え切れない心のときめき、まるで恋をするような魅惑の衝動が胸に迫ってくるのだ。
そして、大きな魂を持つ楽器とそれに更なる生命を吹き込む男の絆、幾多の数奇な運命を経て出合う彼とピアノたち、実にドラマチックだ。
良く出来た神話的物語と思いきや、実はノンフィクションというのが凄い。ピアノ好き、パリ好きはもちろん、それらに興味がなくても、愛用品であれ、蒐集品であれ、自分の中で"愛"を以ってこだわる"何か"を持つ方なら、きっと共感出来るはずだ。