『七都市物語』シェアードワールズ (徳間文庫)
「待望の」と冠するには、あまりにもマイナーなこのシリーズ、さて、実物の方の出来がどうかいな、と、試しに読んでみると、予想する以上の佳作揃いだった。
「大転倒」という地殻変動の末、干上がったジブラルタル海峡に運河を建設する公社と、その公社に資本を投入している二都市との政治的軍事的対立や駆け引きを描きながら「ボーイ・ミーツ・アガール」の物語を展開する、小川一水の「ジブラルタル攻防戦」。
異常な出生を持つ主人公と、その主人公を支えるナイーブで凡庸な物語の語り手も兼ねる青年、という、お得意の構図で「この世界ならでは」の虚々実々の駆け引きを展開する森福都の「シーオブクレバレス号遭難秘話」
。
架空戦記畑が本来の活躍の場である横山信義は、「ペルー海峡攻防戦・番外編」として、お得意の海戦、それも、比較的珍しい「潜水艦狩り」を展開、の、「オーシャンゴースト」。
横山と同じ「架空戦記畑」でも、羅門祐人は、やはりこの世界でしか活躍の場がないような、ある種の「トンデモ兵器開発秘話」的な物語を用意する。
総じて、同じ世界を共有しながら、各々の得意とするフィールドの方に引っ張ってきて、のびのびと料理しているなあ、という感じで、どれも(良い意味で)気楽に読み終えることが出来た。
狐弟子
中国の唐時代を背景にした短編小説7編が収められています。
一見突飛な設定のものでも、それが物語の展開の伏線につながる
巧みさと、どことなく流れる中国の土着的なにおいの感で、かえって
登場人物たちにもリアリティを感じたり。
一見愚鈍に見える少年が狐と呼ばれる師匠に弟子入りし、しだいに
その機知を発揮し、大の大人をやり込める痛快でどことなくコミカルな
表題作の「狐弟子」と、盗賊で髪結師の主人公という設定が面白く、
最後には思いもかけない展開で読ませる「雲鬢(うんびん)」が
個人的に面白く、気に入りました。
長安牡丹花異聞 (文春文庫)
題名をみておわかりの通り、中国を舞台とした時代小説の短編集です。
文章に冗長なところはないのですが、どことなく気怠るい雰囲気も漂います。
なかなか明かされない謎が絡むからでしょうか?
それとも艶ややかな美女のせいでしょうか?
とは言いつつも、作品ごとに趣向が異なります。
私は表題作に一番惹かれましたが、「殿(しんがり)」という作品の、最後の方にある場面は一幅の絵が想起されて~これもまた楽しめました。
中国の風物が今ひとつな方でも、食わず嫌いせずに挑戦してみてください...これから訪れる秋の夜長に...
双子幻綺行―洛陽城推理譚
希代の烈女即天武后に仕える宦官と女官の美麗双子が、ひと癖もふた癖もある後見人や今をときめく売れっ子伎女さんなどの魅力的な脇役陣に固められながら次々と怪事件を解決していきます。最後の事件を読み終えたとき、「おお!、そうだったのね!」となり、「ううっ、続きが読みたい・・・」となること必至。
琥珀枕 (光文社文庫)
日本を舞台にした、「あやかしもの」とは少し違う。宮部みゆき、畠中恵などとは同じようなあやかしをテーマにしながら、作風が違う。彼女たちのあやかしは、なんか、浮世離れしています。(当たり前ですがね)小野不由美なんかとも微妙に違う。
どちらかと言うと、森福都の方が、リアリティがあるのですね。物語自体は途方もないお話なんですが、なんともリアリティがあるのですね。あやかしよりも、生身の人間の方が遙かに恐ろしき存在であることが物語にリアリティを与えているのでしょう。
兎に角、面白い!に尽きます。少年が成長した続編が出れば良いのですがね。