性悪猫 (やまだ紫選集)
書架のみえるところに飾っておいてふとしたときにまた読み返したくなる、素晴らしい作品集です。一話といえるかどうか微妙なくらい短い短編が寄せあつまっていて(長めの話もあります)、筋はあってないような話がほとんどです。最後のほうで数ページにわたる猫の素描が描かれていて、そちらもいい感じです。 やまだ紫作品はほかに「しんきらり」「しあわせつぶて」を読みましたが、男である私だからなのか、こちらの二作品からはどうも圧迫感を感じました。「しんきらり」では夫の身勝手さを、「しあわせ―」では妊娠をめぐっての夫とのすれ違いを妻の視点から描いているのですが、主人公である女性(妻)がしだいに精神的にネガティブへ傾いてゆく様がみてとれます。なんだか本当に夫である自分がその状況にいて、気をつかってハラハラさせられているような‥。そういう意味では真に迫った力作といえるかもしれませんが、私には、手元に置いて何度も読み返したくなる漫画ではありませんでした。 「性悪猫」は主人公が猫で中性(的)だからでしょうか、そのような類いのネガティブ性は感じませんでした。やまだ紫の、これが真骨頂ではないでしょうか。
しんきらり (やまだ紫選集)
普通に四半世紀、マンガを読んできている人なら知らぬ人はいない作家。
やまだ紫は間違いなく「女性漫画家」の始祖の一人だ。
70年代に「COM」でデビューし「ガロ」に移り「ビッグコミック賞」佳作も取った。しかしすぐに結婚と出産育児で休筆。「性悪猫」で復活しその後火山の噴火のごとく名作を立て続けに発表する。「しんきらり」は団地に住む子ども二人と平凡な夫を持つ主婦の物語で、不倫や子どものエキセントリックな不幸やドラマも何も起きない。平々凡々とした日々が描かれていく。
しかし世の中、この平凡な日常こそがドラマであるということに気付かせてくれたのが、やまだ紫である。
昨今絵柄が古いとか、ディテールに時代を感じるとか、そういうことで表層的にしか作品を読めない人もいるものだが、余計な上っ面の部分を取り除いて核となる作品そのものを見るとき、やまだ紫の作品はどれもきらめく宝石のような輝きを失わない。
これから母になる少女たち、いま母であり妻である女たち、そして何より世のオトコどもに読ませたい。読むべき作品だ。