慟哭の谷―The devil’s valley
自然は確かに美しいものであるし,優しい面もある。しかし,恐ろしい一面もあることを,私達はつい忘れがちである。本書は,ヒグマによる本邦最悪の獣害事件を通して,自然の恐ろしい方の一面を伝えてくれる。クマによる襲撃の描写は,生々しい。また,当事の開拓民の生活や,情報伝達の実態,事件を伝える新聞報道などにも触れており,当時の生活の一端を知るうえでも興味深い。
もともとは事件の約50年後に,事件の当事者への聴き込みなどによって,本事件の報告が綴られた。それから約30年後に,この『慟哭の谷』が出版され,今ではそれからさらに約10年が経った。当事者の証言も踏まえ,事件について詳しく書かれていることを考えると,本書は貴重な記録であると言えよう。