10th/テンス
何というか、とても不思議な音楽です。
サーカスのようなカラフルでポップな感覚と、音符の突然の跳躍といった現代音楽的な冒険心が共存しているので、楽しさと不安とが、同時進行で心の中に入って来るような感覚があります。
大半の楽曲をロボットが歌うのですが、その声についてもあえて表現するならば、泣きながら笑っている、という感じに聞こえるものです。(その点では、「こどもと魔法」のライナーで惹かれると書いていたサーカスのピエロと、合い通じるものがあるのかもしれません。)
全体に渡ってほのかに漂うレトロな雰囲気も、このアルバムの魅力だと思います。
ラストの「余呉湖にて」は、とても美しい曲。
10th
最近のエレクトロミュージックにおける人気を聞いて、少し聴いてみたいけどエレクトロって当たり外れが大きそうでどうもとっつきにくいって思ってる方。エレクトロにはフォーキーなものと複雑で抽象的なものに大まかに大別できると思います。後者の方には、PREFUZE73、APHEX TWINなどのクラブよりのアーティストが含まれるとおもいますが、激しいのはちょっと…って思われている方には非常にお勧めします。フォーキーエレクトロミュージックの持つ美しさはもとより、かつ少し軽い気持ちで聴ける、チルアウトした面と、幾分のクラブエレクトロ側のかっこよさをいい配分で併せ持つ傑作と言って良いでしょう。薄明りのもと、夜眠る前にボーっとしながら聴いてみると幼少の頃を思い出したかのような甘く懐かしい気持ちになるかも。美しいロボット声に加工されたヴォーカルが気持ちいい眠りに誘う。そんなアルバムです。
KIRINJI RMX(2)
リミックスとは解体し、解釈を加えて再構築する作業です。ゆえに既にあまりにも完成されてしまっている楽曲の姿は、リミキサーを、そしてリミックス品を聞く私たちをも尻込みさせるものです。
ですが、安心してください、そこ行くお兄さん&お姉さん!
決して楽曲は死んではいません。壊れてもいません。そのエッセンスは凝縮されて、新しい形で紡ぎ出されています。完成と解体。そのぎりぎりの境界線の上にこのアルバムは存在しているのです。それを中途半端とみなすか、愛ゆえにと涙するか、その判断はあなた次第。
珠玉のメロディと職人たちの愛と技が集結したこの傑作を聴き逃すのは、本当に損ですよ。
(なかでも「悪玉」はいろんな意味で最高でした(笑))
TNT
何の予備知識もなく聴いたら、たぶん良質のBGMとしてさらっと聴き流してしまえそうなくらい、表面的には普通にイージーリスニングとしても機能しうる程度のポップさを持つインストアルバムなので、最初聴いたときには正直これのどこがポストロックなのか、どこらへんに斬新さがあるのかよくわからなかったのですが(たぶん今でも大部分わかってないのかもしれませんが)、一音一音吟味するように聴いてみるとだんだん面白くなってきました。
“ロック”というものが既にある世界や人間の関係性を表現するような、精神的・情緒的なものだとすれば、“ポストロック”とは言わば人工的な建築物のようなものなのではないかと私は思います。直接心に訴えかけるのではなく、その外観や構造から聴く人に何かを喚起させるという方法論です。なので全体を見たり、部分を見たり、自分で構造を解析してみたりといった能動的なアプローチを聴き手の側からやってみないと楽しめないかもしれません。同じ家でも、住めれば何でもいいと思っている人にはどの家も同じに映るでしょうが、こだわりのある人なら細部を確認してその機能性や美観でもって区別しようとするはずです。そのこだわりを持ってこのアルバムを聴くとなかなか面白いんです。全体としては普通の音楽として機能していても、細部の素材やその加工具合や配置や構造を探ろう、聴き取ろうとして聴くとだんだんハマってくると思います。
一聴したときのポップさにとらわれずに、何度も聴いてその一音一音に耳を傾ければ、その度に違う表情が見えてくる飽きの来ないおもしろいアルバムだと思います。