夫婦善哉 [DVD]
1955年(昭和30年)作品。部隊は昭和7年(1932年)の大阪。
船場の老舗問屋の長男、柳吉に森繁久彌、42歳。
病気の女房と子どもを残して道楽の限りを尽くし勘当状態である。
ボンボンの放蕩息子のだらしなさを見事に演じきる。
キタの芸妓で柳吉に惚れ抜く女の役に淡島千景、31歳。
この年のキネ旬ベストテン2位である。
ちなみに、1位は『浮雲』(監督:成瀬巳喜男)である。
麦秋 [DVD]
紀子三部作の第二作。日本人必見の映画であることは疑いないが、何が本作を特別なものにしているのか?
まず、他の小津作品に共通する要素が数多く登場し、反復・変奏を本質とする小津映画のファンにとって時間の流れに身を任す悦楽に満ちている。娘の縁談、ユーモラスなまだ子供の兄弟、朝食風景に始まる食事と会話の場面の多用、家が小料理屋の友人、結婚組と未婚組の会話、北鎌倉駅と電車での出勤、次兄の不在に象徴される戦争の影、父母の老い等が、バランスよく盛り込まれている。
では本作のハイライトは? それは杉村春子が原節子に打ち明ける場面。二人の台詞と演技は最高だ。三世代家族の分解のきっかけを作った原節子が涙する場面も良い。
上記ハイライトでめでたしめでたしとはならずに、古き良き大家族の緩やかな解体と諦念を続いて描く点が、東京物語は誰にでも書けても、本作はちょっと書けないという野田高悟の発言につながるのだろう。「みんな段々遠くなる」「いつかはこうなるんだよ」という台詞が心に染みるし、家族の集合写真撮影と埴生の宿を奏でるオルゴールが印象深い。