遮光 (新潮文庫)
やっとけばよかった?
相変わらず暗い話だ。しかし、デビュー作の『銃』よりも、僕はこの『遮光』を今のところ中村文則の最高傑作だと思う。
ある意味、恋愛小説だろうか。死んだ恋人の指をホルマリン漬けにして持ち歩くという、『銃』とテーマが被っているような話。
主人公には、まったく自分というものを持っていない。安いテレビドラマやであった人々が発した台詞をそのままなぞるだけで、彼は自分の意志をほぼ持っていない。怒るのにも怒ろうと思わなければ怒れない。自分のしていることを演技だと思い込み、その思い込んでいることを演技だと思う、究極の負のスパイラルに翻弄されていき、ひたすらに「典型さ」を求めていく。
虚ろな文体とは違い、リアルに描かれた外面描写は著者のお手のものだが、今回は主人公の性格からして、それが特に効果的になっている。
そして、僕が評価しているのは、そんな話でありながら、主人公がひたすらに一生懸命なところだ。狂ってるんだけど、何かをめちゃくちゃ頑張ってる。
まぁ、それがまた逆に物悲しいんだけど。とにかく、普通の人にはあまりお勧めしません。この人の作品は暗すぎます。
何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫)
中村さんの作品は「土の中の子供」以来でしたが、こちらの「何もかも〜」の方がずっと好きです。
「土の中の子供」は正直とにかく暗いという印象でしたが、この「何もかも〜」は暗い中に希望が満ちている気がします。
真下の残した手記には共感しました。
わたしもこういうこと十代の頃書いてたなぁ。
でもわたしは女なので、性に対する爆発的な欲求は無かった。
うーん、男性はそういう点で苦しそうですね・・・。
主人公の恩師の言葉が印象的でした。
「自分以外の人間が考えたことを味わって、自分でも考えろ。考えることで、人間はどのようにでもなることができる。世界に何の意味もなかったとしても、人間はその意味を、つくりだすことができる。」
第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)
普段目にする感性や本書自体のタイトルに惹かれ、購入しました。
あらゆるジャンルの書籍50弱について、それらから想起する又吉さんご自身のエピソードが奔放に綴られています。
書籍ごとにその冒頭で表紙の写真、出版社や価格まで掲載されているので、
気になったらすぐに調べられる助けになっていると思います。
とはいえ「はじめに」にあるように書評の類ではなく、
大半は1冊につき3ページ程度割かれているうちの、最後の数行にその書籍に関する概説がある程度です。
ただし各々ページの最後に短い紹介文の欄がありますので、
物語の導入やあらすじは少しですが知ることができます。
ご自身の過去を振り返る逸話や、徒然なる読みもの、
ご自身の抱えてきたものを赤裸々に、時に淡々と、ひっそりと忍ばせるもの、
一方で一人称で綴った章もあり、
構成としてもバラエティーに富んでいるのではないでしょうか。
それにつられ、読んでいる方もクスリと笑ってしまったり、触発されて色々なことを思い出したり、ほろりと涙を誘われたりしました。
最後の中村文則氏との30ページ以上に及ぶ対談も、
お二人とも本当に楽しそうで、するする読んでしまいました。
特に昨年のキングオブコントで披露された、ピースのネタについての中村氏の考察は、
作家ならではだなあと面白かったです。
さて自由律俳人で有名な尾崎放哉の書籍から始まる本書ですが、
過去の又吉さんの、せきしろ氏との共作本と、ほぼ同じエピソードがいくつか載っていたりしますので、
人によっては少し残念に思うかもしれません。
個人的には「沓子(『沓子・妻隠』より)」と、「変身」、それに「キッチン」の章が特に好きです。
そして「リンダリンダラバーソウル」で、やっぱりほろりと。
また「異邦人」では平成ノブシコブシ(特に吉村さん)のエピソードが入っているのですが、
何とも微笑ましく、又吉さんにとってこの場合の「ダサい」は最大級の友愛のことばのように思えました。
肩の力を抜いて読めるし、ちょっと紹介された書籍も気になってしまう、
まさに又吉さんが目指した通りの一冊になっていると思います。