万能鑑定士Qの事件簿XII
結婚を大期待していた人ががっかりしたのは同情しますが、
まあ聞いてください。笑
もともと単発のミステリーだった万能鑑定士シリーズからすると
謎の提示と謎解きとしては良く出来ていると思います。
太陽の塔の失踪事件は、いつもの様に莉子の雑学知識で乗り切る
のではなくて、推理可能なように書かれています。
警備会社での抽選の方法、あそこを丹念に読みこむと、現場の
20人は無作為に選ばれたわけでないと判ります。良く出来たトリック
なんですが、解明の理屈は後で莉子が語った碁石の説明にあります。
ざっと読み飛ばしただけではわかりませんが、莉子は論理を追及する
垂直思考から、この作品で(というより前作の最後の迷路で)水平思考
に移っている事が判ります。要するに成長しているんです。
碁石の説明は、水平思考によく用いられるサンプルです。
天然だった莉子が賢くなる話とすれば成長し切って明白に円熟の時を迎えてます。
そこが、知性のシンデレラーストーリー大団円という意味じゃないでしょうか。
万能鑑定士Qの事件簿)ローマ数字11) (角川文庫)
今回の敵は住職。
一見すると胡散臭いおっさんが相手のように思われるが、
実業家としても成功している若きイケメン住職。
しかも、チープグッズ店長の瀬戸内を師事しており、
事実上の莉子の兄弟子にあたるのだ。
して内容は相も変わらず面白い。
単純だが、そう来たかと思わせるトリックはさすが。
今までずっと買い続けているファンも納得の仕上がりになっていると思います。
ですが今回はそれだけではありません。他の巻とは大きく異なっている部分があります。
1、小笠原と莉子の関係性の変化。
9巻の後半あたりから二人の関係が変わっていきましたが、この巻はその変化が目に見えて分かるようになっています。
2、殺人どころか今回は実害がほとんどない。
これまでのシリーズは、明らかな詐欺や盗みなどの目に見えた被害がありましたが、
今回に関しては、ある意味では誰も目に見えた害を被った人がいません。
なのにしっかりミステリーしているあたりはさすがというほかありません。
まぁ強いてあげるなら小笠原が一番の被害受けていたかも。
これ以上はネタバレになってしまうので、抑えておきます。
最後に、作中に発売したばかりの某ゲームや、AKBの新曲やらを
タイムリーに放り込んでくる松岡先生の茶目っ気溢れるセンスが大好きです。
そして、ヤフオクに関しては大変勉強になりました。
2ヶ月後の次巻も楽しみにしております。
万能鑑定士Qの事件簿IV (角川文庫)
ミステリの中では定石的ではありますが意外な展開です。
感心させられたのは暗号の解き方です。
暗号そのものの形は古くからある物ですが、この解き方は
ちょっとひねってあって面白いです。
万能鑑定士Qの事件簿 II (角川文庫)
1巻の続きです。この2巻で一つの話が解決し完結しますが、2巻から読み始めると
意味がわかりません。
1巻で匂わされたハイパーインフレの謎、コンビニの弁当が数万円、少年ジャンプが六千円
という物価高騰の謎がまず冒頭で明らかにされます。できればオビにでかでかと、あんな風に
書かないでほしかった。読んでから驚きたかったですね。
でもそれはあくまでこの本の発端。そこからは莉子や小笠原の、1巻に引き続きユーモラスで
人間味溢れるコミカルな活躍が始まります。
なんといっても、情報の処理の巧さは特筆に値します。経済の混乱を判りにくくせず、庶民の
目線で描写していく過程で必要な事を漏らさず伝えていくのは大変なものと言わざるをえません。
紙幣をその手で描ける工芸官というキーマンを追う過程、パニックの中を沖縄に向かい、まさか
これでばったり犯人と会っちゃ安易だよなと思わせる読者の気分を逆手にとる展開、莉子の推理
が当たったり外れたりで本人と一緒に一喜一憂してみたり(その主人公らしからぬドジっぽさも
新鮮です)、とにかく起伏にぐいぐい引っ張られっぱなしです。
特に西表島、船浮集落から東京にとんぼ返りする辺りの展開は面白くて、これか?いやだめか、と
人の死んでいないのにハラハラさせられます。
手掛かりはちゃんと物語の中で提示されていて、解決篇としての最終章で会話のなかで少しずつ
事実が浮き彫りになるところの情報処理も、本当に優れてます。莉子は非常に魅力的なヒロインで、
読後も印象に残るキャラです。
たぶん松岡氏の作品としては、これまでで最も純然たるミステリ、推理物としての体裁の整った
作品でしょう。殺人事件がなくてもこんなに面白くできるんだ、というのは「催眠」が初めて
世に出た時と同じ。トリックだけじゃなくロジックもきちんと成立してて読ませます。
千里眼シリ−ズがあまりに奇想天外、荒唐無稽が売りになりすぎて松岡氏から離れていたという読者
に、オススメの作品と思います。千里眼が好きだった人には、贅肉をそぎ落として面白さを残した
作品と受け取られ、やっぱり楽しめると思います(機械のうんちくが延々書いてあるのが好きな人
だけには向かないでしょう)。公式サイトには集大成的作品とありましたが、さにあらず。
まったく新しい挑戦だと感じました。
内容には満足ですけど、
惜しいのはやっぱ、2巻に分ける戦略ですよ角川さん。これはいっぺんに読まないと。1巻だけじゃまだ
事件起きてないじゃないですか。同時発売の単行本はなぜか2巻併せた価格より高いし。
ダヴィンチコード3巻に分けるのもどうかと思いますが、分けるかどうかは内容で決めてくれませんかね。
このクオリティが維持されることを願い、来月の3巻を期待し待ちます。今度は音楽プロデューサーの詐欺師登場!
小室さん?(笑)
万能鑑定士Qの事件簿VIII (角川文庫)
水不足に悩む波照間島。
それがいきなり解決!?
台湾を舞台とした、トラベルミステリーです。
私は、この話、好きじゃないかも…すいません。
ずっと行ってみたいと思っている国(←あえて「国」)、台湾。
西村京太郎さんの津川警部シリーズや、内田康夫さんの浅見光彦シリーズは、
行ったことないけど、旅行している気分になれるので大好きです。
前回の旅行は、まぁまぁ行ってみたかったフランス・パリ(本命はイタリアです:個人的感想)。
この作者さんは、トラベルミステリー作家ではないので、
正直、いまいちでした。
海水を淡水、しかも即座に飲み水に変える怪しげな技術の解明をするのですが、
メインが移動ばかりで、楽しくなかったのがホントのところです。
映像化されると、すごくおもしろそうですね。
そして好きになった外国籍の人が遠くに行ってしまうとき、こう叫びましょう!
「あんぱんまーん」
…ツボりました。