和平工作―対カンボジア外交の証言
著者は外務審議官(経済)を経て現在はロシア大使。
この本は、南東アジア第一課長時代の経験を元にしており、カンボジア和平について
日本がいかにイニシアティブを取ったかについての話。
勿論内部の手続はちゃんと了して、守秘義務上問題がない部分に限っているのだろうが、
それでも結構率直に踏み込んだ内容を書いているという印象を受けた。
特に、カンボジア訪問を決意してから米国の反対を押し切って実際に訪問するまでの(4~6章)、
東京会議を開催にこぎつけ、裏でタイと共に調整に奔走する話(10章)、フン・セン首相を治療のために東京に呼んで新しい義眼を
作りつつ、今後の和平の方向性を議論する話(15章)辺りは、カンボジア和平について興味がない人でも面白いと思う。
この本を読むと、佐藤優が言っていた「中央省庁で一番重要なのは課長」という言葉の意味も分かる。
著者はまた、安保理常任理事国でないことなどを課題としているが、これは今日にも通じるだろう。
一方、この当時は本当に専門外交官が政治家のサポートを受けつつ主導的に外交を進められた古きよき時代という気もする。
例えば、15章でフン・センと丁々発止のやり取りを繰り広げているのは小和田外務審議官。今なら役人が僭越であるとして
批判されるのではとも思う。また、こうした外交交渉の具体的な内幕を公刊するのも今は益々難しくなっていると思う。