傷だらけの天使 魔都に天使のハンマーを (講談社文庫)
久しぶりに、いや、大藪春彦以来、初めて再読しようと思った日本人の書いた本だ。読んだらすぐアマゾンで叩き売ろうと思っていたが止めた。 リアルタイムで「傷だらけの天使」を観ていた中坊の自分が、今は50過ぎのオヤジになっている。詳しく書けないのが残念だが、プロットの面白さ、あっ!というストーリー展開と泣ける結末が気持ち良かった(留めに自分がダブらせていた「真夜中のカウボーイ」が出るに及んで) そして文中のセリフにショーケンの声がかぶさる。願望は、映画化だ、ショーケン!どんな手を使ってでも、絶対に映画にしてください!でも、映画館では上映せず、ビデオテープの販売のみで!DVDは違う、ダメ!
THE WRONG GOODBYE―ロング・グッドバイ (角川文庫)
矢作俊彦の新作は懐かしの二村永爾が主人公のハードボイルドである。
タイトルからして凄い。
レイモンド・チャンドラーの「THE LONG GOODBYE」の向こうをはって「THE WRONG GOODBYE」なのだから。
ストーリーの展開も似ている。明らかなオマージュなのだが、
刑事である二村が意気投合する飲み友達ビリー・ルウはテリー・レノックスを思わせるし、
二人が飲むカクテルもギムレットならぬパパ・ドーブレ。
おっと、パパとはヘミングウェイのことで彼の好きだったダイキリをダブルで、って頼み方なんですけどね。
細部の会話にも小技がビシバシ決まりまくりで、痛快です。
「リンゴォ・キッドの休日」、「真夜中へもう一歩」を読みなおし、
ついでに「長いお別れ」まで再読したくなる、そんな大傑作です。
昔、資生堂の男性用化粧品のCFに小さなランチ(ってもう言いませんか、モーターボートですね)に乗って三船史郎が港に戻ってくるのがあって、
そのコピーが「帰ってまいりました」というだけで異常にカッコ良かったのを思い出してしまいました。
気分はもう戦争 (アクション・コミックス)
(本来は冷戦下)アメリカとソ連が仕組んだ中ソ戦争に、「戦争がしたい」アブナイ日本人三人組が乗り込もうとするお話。全編フザケ倒したような展開だが、どうしてどうして鋭い内容を持っている。
国際政治バランス、大国の思惑、戦争の醜さを的確に捉えている矢作氏の原作。日本人の軽佻浮薄性、付和雷同性も良く表現されている。また、大友氏の相変わらずの構図の上手さ、兵器を中心とした描写の精緻さも光る。
大友氏の作品と言うと、どうしても読む方も身構えてしまうが、本作は気軽に物語に浸れる快作。
マンハッタン・オプI (ソフトバンク文庫 ヤ 1-3)
…ひと頃、私たちは、彼には指が十八本あるに違いないと信じていた。今ではそんなことは口が裂けたって言えはしない。あちこちが煩いからだ。
で、なければ狂気にとりつかれているんだと言って憚らない者もいた。今だったらあちこちにあれこれされてかなわない意見だったろう。
ピンカートン・インベスティゲーションにいた頃の矢作俊彦はそうした男で、まるで自分の映画に出てくるヒチコックのように、我々の文学シーンにとっては重要な作家だった。…
と下手糞なフェイクは、いい加減にしないといけない。しかし、矢作俊彦の紹介となると、こちらも身構えないわけにはいかない。なにしろ、あちらは別れの決めの台詞を思いつかない限り人には会わないと噂される強面の作家だ。私にとっては何より、あの傑作『気分はもう戦争』の作者として圧倒的な存在感を持っている。
「暴力にもユーモアがあると言ったのはボードレールだったかね」
「ちきしょう だからアカは嫌いだよ…すぐ難しいことを言いやがる」
「我々は戦争をしている…我々の戦闘にパリのデカダンスは無縁だ」
「ケッすまねェな もっと判りやすく言ってくれよ ラーメン屋以外の中国人と会うのは初めてなんだ」
こんな矢作節を何度読み返したことだろう。そんな私にとって、あのFM東京の伝説的深夜番組「マンハッタン・オプ」のスクリプトが完全版で文庫化されたという知らせは、朗報だった。早速手に入れ、かつての日下武史の語りを思い出しながら、少しずつ楽しんでいる。
雰囲気を味わうべき作品なので、読むシチュエーションにも凝って、一篇ずつゆっくり味わいたい。普通にいうと、深夜バーボンを片手に(オールド・クロウなどがよさそうです)というところだが、硬い本に疲れた頭を少し休ませるために読むのも良さそうだ。廣松渉『事的世界観への前哨』(ちくま学芸文庫)とのカップリングなんてどうだろう。
エンジン/ENGINE
確かに粗を探せばいくらでもある。
曰く、ストーリーが荒唐無稽で人物関係や展開・視点がわかりにくい
曰く、文体が凝り過ぎ
曰く、事件の結末が取ってつけた様…
etc.etc.
その通りだ。
しかしこの作品には、そんな欠点をを吹き飛ばす
アクションがカーチェイスが殺戮シーンが
何よりもフルスロットルのスピード感がある。
ストーリーは、冒頭のティファニーの襲撃シーンと
たたき切るようなエンディングがわかれば充分だ。
とやかく言わずに『大傑作 ハードボイルド・エンタメ小説』の頁をめくれ!