翼のはえた指―評伝安川加壽子 (白水uブックス)
たまたまサンサーンスのピアノ協奏曲全集が出たので,楽しんでいたが,ふと気になった.私たちにこういう面白い音楽があることを教えてくれたあのピアニストのことを,世間は今でも覚えているだろうか.夢のような,美しい音楽と裏腹に,無愛想な言葉でしか話せなかったあのピアニストを.そこで日本語 Wikipediaで調べたら,この本がある,と教えて貰えた.それっとばかりに入手して,あまりの面白さに一気読み.ああそうだったのか.フランス語が母語だったのか.折角仕上げに入る時期に戦争に翻弄されて,母語からも先生からも切り離されて地獄同然のこの国に連れ出され,そのままここに住むのが運命だったのか.あまりの残酷さに声も出ない.この国は思い込みの強い連中ばかりが威張っているから,フランスの価値観からすればあり得ない常識がまかり通る.いじめが横行する.辛かっただろうな.でも,縁あってこの著者のような優れた人達が弟子として見ていてくれた.その回想の力たるや物凄いもので,今は亡き人がかつて奏でた音までも聞こえて来る感じがする. 昔,安川さんのファンであった者として,著者にお礼を申し上げたい.この本は古くはならないだろう.クラシックファンに強く推薦.
安川加壽子の遺産II
日本のピアノ教育界の大御所、安川加壽子の演奏。1922年生まれというからミケランジェリやラローチャとほぼ同世代である。ここに聴かれる彼女の演奏には、フランス仕込みの技巧とセンスが十二分に発揮されている。録音状態は当時としては決して悪くない。
特にラヴェルの『鏡』がどれも出色の出来。活き活きとしたリズム感、常に流れるような軽やかな技巧、それにラヴェル作品になくてはならないファンタジーの飛翔とイメージ喚起力に溢れている。最も有名な「道化師の朝の歌」のテンポは相当速いがそれが全く力任せではなく、音色も多彩。
N響とのライブであるラヴェルの左手協は、相当の難曲であるだけにミスタッチも少なくないものの、十分に彼女なりのアイディアやスタイルが伝わってくる高水準の演奏内容(ただし、オケは明らかに良いとはいえない)。
おそらく腕力がないことを理由に彼女の技巧を弱いと考える向きもあったようだが、そうした評価は「ハスキルの技巧が弱い」と断ずる事と同様に、技術の見方に対する全くの誤解であろう。
新訂 メトードローズ ピアノ教則本(ピアノの一年生)
非常に歴史の古い教則本です。難易度としては、バイエルの前半から中盤、といったところでしょうか。
バイエルと違い、練習のための曲、ではなく、古いフランス民謡が題材に使ってあります。中には、「月の光に」など、日本人の耳におなじみのものもあります。
一つ一つにタイトルがあり、曲になっているので、曲の世界を楽しんで弾けます。
私は、子ども時代、これがとても好きでした。