Akoustic Band
テクニックで言えばハービー・ハンコックもマッコイ・タイナーもキース・ジャレットでさえかなわないほどチック・コリアのピアノは凄い。それなのにこのアルバムはどこか走りすぎてテクニックを誇示したようなところがあるように思える。選曲もソー・イン・ラヴ、枯葉、いつか王子様が、といったスタンダードで申し分ないのに上滑りしていて、エモーションが伝わってこないのだ。チック・コリアのアコースティック・ピアノによるスタンダードがどうしたことなのだろう。思うに「どうだうまいだろう」というチックの衒いのようなにおいがこのアルバム全体に漂うのではないか。スタンダードに関して言えば、キース・ジャレットに先手を打たれ少しあせったのではないかというところか。ただし彼のオリジナル「スペイン」だけはいつ聴いてもスカッとする。
スタンダーズ・アンド・モア(紙ジャケット仕様)
1989年1月2・3日、ニューヨーク、クリントン・スタジオで録音。Executive Album Producerとしてロン・モスがクレジットされているのがみそかも知れない。Akoustic BandというのはElektric Bandのリズム・セクションであるジョン・パティトゥッチとデイブ・ウェックルを抜き出して作ったバンドなのは周知の事実だが、きっとロン・モスが考えたのだろう。
1989年度のグラミー賞を二部門で受賞しているのはともかくとして、このバンドの構成にホントに無理はないのだろうか。はなはだ疑問だ。ジョン・パティトゥッチに才能があるのは分かるが、元々エレクトリック・ベースを弾いていた者が易々とアコースティック・ベースで実力を出せるものなのか、ということだ。ミロスラフ・ヴィトオスにエレクトリック・ベースを、ジャコ・パストゥリアスやジェフ・バーリンにアコースティック・ベースを弾かせているようなものである。はなはだ無理がある。だから自ずとトリオ・ミュージックとは結果が異なってしまう。
悪いのはジョン・パティトゥッチにアコースティック・ベースを強いた企画者である。インター・プレイに優れるわけがない。確かによくまとまっているのは理解できるが、全く同じ曲をミロスラフ・ヴィトオスとロイ・ヘインズと組んでやったらもっと凄かったろう。残念なアルバムである。